2021年度 野田清月/月例自選俳句 へ


  
2021年1月 野田清月の自選俳句

恙なく過ぎゆく傘寿去年今年
人日やめつきり増へし共白髪
犬にまでポース求めし初写真
それぞれの;歴史重ねし賀状かな
余生とは減算なりし落椿
天職に老ゆる幸せ初商
人影の耐へし境内雪霏々と
  
<この月の出来事>新型コロナウイルスを避け、センター試験に代わり大学入学共通テストを実施。
  

  
2021年2月 野田清月の自選俳句

残雪のここらあたりが府県境
鴬の自信なき声所在秘す
俳句詠む限り健脚梅薫る
老が身にほの暖かし梅日和
郷土富士霽れし水郷野火走る
潜みゐし疫病の神街おぼろ
神々の沓音今に建国日
  
<この月の出来事>福島県沖、マグニチュード7.3の地震発生。
  

  
2021年3月 野田清月の自選俳句

出漁をうながす浦の鰆潮
しつとりと楢の小川に名の木の芽
グランドに一礼をせり卒業子
巻きぐせの卒業証書見せられし
生き方を変へしか二羽の残り鴨
化野に浮世無情の紫雲英摘む
かの地との時差は如何ほど鴨帰る
  
<この月の出来事>日高本線 鵡川駅・様似駅間が廃止。
  

  
2021年4月 野田清月の自選俳句

一とつ座に五人の余生春名残る
種となる大器晩成葱坊主
一と時を対峙の句材春の雲
布教師の説きゆく奇跡リラの花
花惜みよはひ一歳重ねけり
春陰や絵師が書きたす泣きぼくろ
庭手入遅々と進まず丁字の香
  
<この月の出来事>ジャパンネット銀行が社名を「PayPay銀行」に変更。
  

  
2021年5月 野田清月の自選俳句

母の日の献花香りし片便り
主治医より問診電話夏に入る
木蔭へとベンチを移す新樹晴
小硯で足りし在家の夏書かな
江戸前の寿司には成れぬ鱚逸話
芍薬の蕾みなでゆく雨意の風
不埒なる塀の落書き棕櫚の花
  
<この月の出来事>改正少年法が成立。18歳と19歳の少年を「特定少年」と定め、起訴後の実名報道が可能となる。
  

  
2021年6月 野田清月の自選俳句

恙なき年金暮し通し鴨
茶柱の吉兆しかと五月晴
子午線の町若葉風靑葉風
鮎料る話に終始宿あるじ
茶柱の吉兆しかと五月晴
子午線の町若葉風靑葉風
理髪屋にうぬぼれ鏡業平忌
  
<この月の出来事>最高裁再び「夫婦別姓を認めない」との判断を下した。
  

  
2021年7月 野田清月の自選俳句

老いらくの出口はひとつ花はちす
競りあひに勝ちし監督玉の汗
白焼きに始まる京の鱧づくし
十歳も若く告げをりサングラス
中々にレシピ決まらぬ猛暑かな
夕虹の消えて残せし郷土富士
疫病を避くるナイター無観客
  
<この月の出来事>東京オリンピックの開会。
  

  
2021年8月 野田清月の自選俳句

句会とはいつか疎遠に遠花火
奥方を遠ざけ召され稲の殿
我よりも若き御先祖墓洗ふ
郷捨てしし馬鹿ちょん揃ふ盂蘭盆会
はらからの揃ひし今宵盆の月
在りし日の徳を敬ふ絵灯籠
嬰児の息軽やかに星月夜
  
<この月の出来事>東京パラリンピックの開会。
  

  
2021年9月 野田清月の自選俳句

露の身に醸す闘志の詠句かな
淋しさに鳴くな鳴くなよ親無子
台風の抜けし一番星の影
野のものに季語を巡らす秋の色
郷土富士望むかはたれ月今宵
秋袷着こなし粋に斟酌す
コロナ禍の独りカラオケ夜の長し
  
<この月の出来事>デジタル庁が設置された。
  

  
2021年10月 野田清月の自選俳句

句仲間に不義理重ねし秋がゆく
潮騒の絶ゆ間なき岬鷹渡る
短兵の選挙戦術そぞろ寒
神鶏の刻なしの声秋入日
身のまはり澄みゆくばかり暮の秋
武者隠なりしからくりうそ寒し
天寿への旅はどこまで秋の風
  
<この月の出来事>土曜日の普通郵便などの配達が無くなる。
  

  
2021年11月 野田清月の自選俳句

コロナ裡の嗽幾たび神無月
小町井の竹艶めきし初時雨
波頭尖りて走る今朝の冬
宿坊の星の稜線峨峨と冬
木の葉髪益ます父に似てくるか
同じ柄一つとてなし柿落葉
小春日や影絵の兎ぴよんと跳ぶ
  
<この月の出来事>将棋の藤井聡太三冠が史上最年少の四冠となる。
  

  
2021年12月 野田清月の自選俳句

決算日ことに渋滞十二月
学徒去り学校林の山眠る
板前のショーとし鮪解体す
霙来て里坊風の鳴くばかり
舳先の揃ふ繋船冬夕焼
比翼塚訪ふ人もなし枯葎
墨痕の下五しつとり臥風の忌
  
<この月の出来事>オミクロン株の市中感染が確認され、過去に例のないスピードで感染していった。