2019年1月 野田清月の自選俳句

術後五年過ぎし安堵や春隣
木津川の冬草青し長堤
産土の屋根よりこぼれ初雀
仮名遣ひそのまま読む子歌かるた
洗心の軸にかしこみ初稽古
左義長の沖に漁火二つ三つ
スクラムのラガーらの背に生駒山
<この月の出来事>女子レスリング、吉田沙保里が現役引退を発表。

2019年2月 野田清月の自選俳句

梅に向け置かれし床几荷ひ茶屋
声を張り終の棲家の鬼やらふ
腕に巻く時計ひんやり春浅し
薄氷の映せし嶺々のあかね空
一柱を増やせし位牌寒明くる
紅梅の戸の内昏き御堂かな
野の梅の香る夜風の柔らかし
<この月の出来事>天皇陛下御在位三十年記念式典挙行。

2019年3月 野田清月の自選俳句

蒲公英の絮吹かれゆく徒歩日和
荒行の跡を紙子に修二会僧
法会尽き猿沢の池水温む
こころざし何時しか忘れ蜆汁
刻なしの鐘の響きし彼岸寺
官憲の指図は昔大掃除
卒業歌止めば回顧の静寂あり
<この月の出来事>JR西日本のおおさか東線、新大阪駅・放出駅間が開業。

2019年4月 野田清月の自選俳句

春惜む古都哲学の径伝ひ
京洛へ向ふ疏水路花並木
八十路なほ石ともなれず春眠す
観潮の凹の卍の右回り
船笛を吹き交わしゆく海朧
鞦韆を漕げば星空ありにけり
逃水の上にどつしり観覧車
<この月の出来事>天皇明仁ご退位。平成の終焉。

2019年5月 野田清月の自選俳句

改元の山河変はりなき立夏
見守られ令和の梅の花は実に
風流を雅びに広げ西祭
暁の昨日に代はる首夏の風
新緑の日の斑揺れゐる御幸道
老いてなほ一と日短し罌粟坊主
鯖火焚く湾一望の母鄕かな
<この月の出来事>徳仁が天皇に即位。元号を令和に改める。即位後、初の一般参賀が行われた。

2019年6月 野田清月の自選俳句

宝刀の抜き身の刃風光る
静けさや眠けの中に遠河鹿
梅雨傘に不満言ふても無駄なこと
吉兆の茶柱しかと五月晴
田植機を止めてもぐもぐタイムの娘
リハビリを終へし窓辺の風薫る
郷土富士指呼に病床緑さす
<この月の出来事>G20首脳会合(サミット)を大阪府で開催。

2019年7月 野田清月の自選俳句

冷コーのオーダー通る湖の町
船首より身を乗だす娘夏の湖
訪ね来し句碑見当たらず夏の霧
おじぎ草話題拡げし聞き巧者
令和なる御代進みゆく青山河
馬鹿となるドアのノブねじ大西日
病床に無くせし句メモ夏の夜
<この月の出来事>百舌鳥・古市古墳群が世界文化遺産に登録される。

2019年8月 野田清月の自選俳句

棚引ける雲の生駒嶺秋立つ日
石となるまでは俗人墓洗ふ
盆の餅遠忌となりし父母にかな
盆僧の法話に落ちのあることも
男らは地を這ふやうに阿波踊
琅?の艶深めゆく風は秋
日照雨去り家庭菜園大根蒔く
<この月の出来事>悠仁親王が初めてブータンを訪問。

2019年9月 野田清月の自選俳句

花真菰揺らせし風の日もすがら
人去れば風つのりきし貴船菊
夜長の灯妻の灯とは別にあり
参道の羽音集めし紫苑かな
仲秋や月の名追ひし日々の帰路
海霧晴れて漁船の影の五六艘
四五尋(ひろ)の底透通る秋の海
<この月の出来事>新たな日米貿易協定の合意を確認する文書に署名。

2019年10月 野田清月の自選俳句

神苑の闇深めゆく鹿の声
鶺鴒の叩く当尾(とおの)の石仏
大川の月影揺るる夜寒かな
邂逅の言葉しみじみ秋深む
板前の菜箸迷ふ鵙の贄
夜明けより鵙の高音や句友の忌
郁子一つ誰が置しかか父の墓
<この月の出来事>消費税が8%から10%に増税。

2019年11月 野田清月の自選俳句

寒竹の子を精進の膳にかな
万歳に続く祝砲秋気濃し
尾白鷲気迫一気の降下急
祈ぎ事は子孫繁栄亥の子餅
東大寺指呼に子規の庭小春
歎異抄(たんにしょう)語りし僧や御取越
選者退く傘寿の傘に初時雨
<この月の出来事>大嘗祭の中心となる儀式「大嘗宮の儀」が執り行われた。

2019年12月 野田清月の自選俳句

鮟鱇に罪のなくして吊るさるる
緑児を正面の座にクリスマス
ずわい蟹提げてがに股漢来る
ゆるやかに埠頭近づけ暖房船
海に向く発電建屋北風荒ぶ
素通りの出来ぬ越し方社会鍋
玄関を出れば歳末直ぐそこに
<この月の出来事>ラグビーW杯で史上初の8強入りし、日本代表が、丸の内をパレード。
