2017年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2017年1月 野田ゆたか自選俳句

京洛の残月冴ゆる無人駅
恋占の吉と出でたる初みくじ
美人湯に長逗留の避寒かな
雪兎だれが置きしか水子墓
ピカソでもかうは描けまい福笑
鶴の舞ふ新年号の挿絵かな
春隣生駒の端山動きそむ
  
<この月の出来事>大相撲初場所14日目で大関稀勢の里が初優勝。
  

  
2017年2月 野田ゆたか自選俳句

疎水路の流れゆたかに猫柳
橋洗ふ音止めどなき雪解川
松籟の絶えぬ浦曲の春浅し
子授けの神在す宮梅香る
恋猫の入り込む闇の深さかな
所作粋に女形役者の鬼やらひ
限りなき転生輪廻春動く
  
<この月の出来事>午後3時に仕事を終えて豊かな生活をと銘打ってのプレミアムフライデーが実施される。
  

  
2017年3月 野田ゆたか自選俳句

磯開吃水深く船戻る
水替へて一夜蜆の砂吐かす
荒行のあとの紙衣に疲れ見ゆ
金網の蔦芽吹けゆく青みかな
膳一つ増やせし朝餉入彼岸
山笑ふ血統書もつ犬と戯れ
計画のいらぬ余生や蜷の道
  
<この月の出来事>東京メトロ銀座線の01系がこの日限りで営業運転終了。
  

  
2017年4月 野田ゆたか自選俳句

囀に押されて巡る子規の庭
雪柳笑みて雪崩るる女坂
千金の余生の朝寝ほしいまま
灯花会の佐保の流れに花筏
子雀よ転ぶなここは二寧坂
庭園をライトアップの風光る
春昼を点し本尊阿弥陀仏
  
<この月の出来事>富士重工業が「SUBARU」に商号変更。
  

  
2017年5月 野田ゆたか自選俳句

丘に舞ふ発電風車ポピー咲く
大川の風飄々と夏きざす
二代目の主宰は若し胸に薔薇
メトロ出て薄暑の町の句会へと
琅*かん*を揺すり筍流しかな
袋角とて誇示の角突き合はす
錆びつきし乳鋲の門樟若葉
  
<この月の出来事>JR東日本の超豪華クルーズトレイン、TRAIN SUITE 四季島が運行を開始。
  

  
2017年6月 野田ゆたか自選俳句

今すぐに蝮蛇出さうな注意札
楊梅を覚えてをりし老の舌
結界の雨の明るし著莪畳
佛めく林泉(しま)の捨石苔の花
京洛の鰻上りといふ暑さ
紫陽花を嬲りし驟雨花街去る
うつかりと言ふを許さず蟻地獄
  
<この月の出来事>西日本旅客鉄道の超豪華クルーズトレイン、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」が運行を開始。
  

  
2017年7月 野田ゆたか自選俳句

余生にも上り坂あり凌霄花
渡り来し借景の風造り滝
青田風入れて句会の始まりぬ
虹消えて烏騒げる比翼塚
幽かなる一と声洩らし夜蝉落つ
暮れなづむ城址に残る草いきれ
天草の夜干し匂へる雑魚寝かな
  
<この月の出来事>都議選で小池百合子が率いる都民ファーストの会が公認候補50人中49人が当選した。
  

  
2017年8月 野田ゆたか自選俳句

川漁師棹さす浜に蓼の花
踊唄風に乗り来る看取かな
一葉落つ友は黄泉路へ旅立てる
葬僧の帰られしあと星流る
水引の咲きゐる木津の架橋跡
句の縁濃き友集ふ盆の句座
ご先祖の戻られしらし門火揺る
  
<この月の出来事>気象庁が関東甲信地方・東北地方での梅雨明けの発表を断念。梅雨明けなしは史上初
  

  
2017年9月 野田ゆたか自選俳句

院号は清月でよし秋の月
虫の音や昔師団の兵舎跡
伏流の噴ける湾処や花芒
突如鳴る河川サイレン秋出水
限りなき嵯峨野の闇や虫時雨
雨止んで邯鄲の声澄みわたる
放生会の鰻芸妓に嫌はれし
  
<この月の出来事>桐生祥秀が100m走で9秒98の日本新記録が生まれる。
  

  
2017年10月 野田ゆたか自選俳句

坂道の熟れし無花果もぎ呉るる
金閣の映ゆ池の面に薄紅葉
福渡し五指では足りぬ今年米
刻なしに鳴ける神鶏冬近し
早々と騎馬武者揃ふ時代祭
実ならざる銀杏増えゆく御堂筋
砂利船の下りゆく浜柳散る
  
<この月の出来事>本田技研のスーパーカブの世界累計生産台数が1億台に達した。
  

  
2017年11月 野田ゆたか自選俳句

朴落葉隠れ遣水奔りをり
走り根の瘤のあらはに冬の道
北窓を塞ぎ小暗き東司かな
落葉尽き天底抜けの御堂筋
花石蕗に雨雲の割れ日矢こぼす
やつて来し寒さ増す候嵐雪忌
年ごとに持ち重りせし茎の石
  
<この月の出来事>レオナルド・ダ・ヴィンチの油彩画、『サルバトール・ムンディ』がオークションにかけられ、4億ドルで落札。
  

  
2017年12月 野田ゆたか自選俳句

風荒るる余生となりし枯芒
笹子鳴く忍者の郷の陣屋跡
酢のものに始まる浦の牡蛎づくし
海に向く発電風車北風荒ぶ
歳晩の煤汚れせし髪を切る
句会日のまだ残りゐし古暦
神鈴の緒に縋りゐし冬の蜂
  
<この月の出来事>羽生善治が、将棋界史上初となる永世七冠を達成。