2013年1月 野田ゆたか自選俳句

風花を舞はせドクターヘリー発つ
寒菊は淋しき色と思ひけり
高々と虚空拡げて寒の月
動くもの雪女めく夜の静寂
初旅や赤福を食ふ総本舗
借景の雨もめでたき初景色
楪や余生大事に恙なく
<この月の出来事>小笠原諸島父島で世界初となる「大王烏賊」の生態撮影に成功。

2013年2月 野田ゆたか自選俳句

涅槃会や泣明したる鼡の絵
涅槃図の嘆きを今に焼香す
浅春や波立つ湖の風固し
末黒野の芒つんつん空睨む
鳴竜の余韻にひそむ余寒かな
黄梅の盛りの枝を日が弾く
片脚を大内山に春の虹
<この月の出来事>奈良県明日香村の島庄遺跡で、7世紀前半の大規模な塀の跡が確認される。

2013年3月 野田ゆたか自選俳句

雨やんで茅花流しの宵となる
温顔の集ひつどひて句座開く
一句消え一句生れて春の雪
戻り税愛犬の声春めける
林泉の音を高めて水温む
この靄も木の芽育むものとして
お水取済みし伽藍の落着きに
<この月の出来事>パンスターズ彗星 (C/2011 L4)が近日点を通過。宇宙の年齢は137.98±0.37億年であると発表。

2013年4月 野田ゆたか自選俳句

四月馬鹿男の嘘の底浅し
貝寄風の波逆立てる河口かな
飛花落花尽きて始まる峡の黙
負けること喧嘩凧には許されず
亀の鳴く篠突く雨の芭蕉庵
虚子忌詠むことも瞬時の五十年
流さるるままに余生の閑日永
<この月の出来事>最高裁で水俣病患者認定緩和判決。遺族側が勝訴。

2013年5月 野田ゆたか自選俳句

刻なしの鶏鳴長閑陶の里
卯の花や神苑といふ静けさに
浦曲なす鳴き砂の浜夏燕
夏めくや苔のみどりも木洩日も
点呼とる駅前広場若葉風
紙袋一つで足りる夏の旅
古茶好きは還暦過ぎてからのこと
<この月の出来事>東京ドームで松井秀喜の引退式と、長嶋茂雄・松井秀喜の国民栄誉賞授与式が行われた。

2013年6月 野田ゆたか自選俳句

青鷺の気配消したる瀬合かな
もがくほど術中に落ち蟻地獄
控目の黒が目を引き夏帽子
簗袖の水黒々と魚群るる
著莪咲くや昔木の津の宿場町
追ふ蝿に遊ばれもして余生かな
ほどけゆく舎利礼文の五月闇
<この月の出来事>銀座松坂屋が閉店。

2013年7月 野田ゆたか自選俳句

風鈴や日和くずしの風の音
夕立の上るを待てぬ旅程かな
向日葵の競ひし丈や園燃ゆる
醜草も名草もあへぎ草いきれ
石庭の一景なせる夕立かな
被災地を熱く語りて帰省の子
夕涼や今日を閉じゆく茜雲
<この月の出来事>隅田川花火大会が、雷雨の影響で史上初の中止に。

2013年8月 野田ゆたか自選俳句

立秋といふも一雨欲しき街
朝顔の日々に咲く花新たなる
思ひ出の古りし硯を洗ひけり
門火焚く西方浄土遙かにす
家長てふ座に着き修す裏盆会
仏間の灯落とせば盆の月明り
鳥どもの去りて更けゆく庵の秋
<この月の出来事>高知県四万十市西土佐で、日本国内観測史上最高の41.0度を記録した。

2013年9月 野田ゆたか自選俳句

花葛の風香りくる闇深し
吾亦紅裾野拡げて郷土富士
更待の行く先々の闇路かな
望月を去りゆく雲も又過客
一湾の秋潮といふ潮目濃し
露を踏み将の栄華を偲ぶ城
霧晴れて銀杏大樹の暮れ残る
<この月の出来事>NTTドコモがiPhoneの提供開始を発表し、日本の携帯電話大手三社全てがiPhoneを取り扱うこととなる

2013年10月 野田ゆたか自選俳句

仰ぎ見る星の影より秋の声
沈黙は思慮のいたはり温め酒
うそ寒や電話とるとき戻すとき
心証を隠しきれずに石榴かな
廃農に置き去りされし柿たわわ
末枯を華やぎとして華道展
身に入むや舎利礼文のりんの音
<この月の出来事>九州旅客鉄道の豪華寝台列車「ななつ星in九州」が運行開始。

2013年11月 野田ゆたか自選俳句

たくましさ影を薄めて冬紅葉
そぞろ歩の黄葉且散る御堂筋
子の代に譲るいびつな茎の石
鷹化して余生の域の鳩となる
鏡中の顔は誰ぞや木の葉髪
句仲間の無礼講にて旅小春
草庵の黙深めゆく夕時雨
<この月の出来事>富山県真砂岳 (立山連峰)にて雪崩が発生。登山者7人が死亡。

2013年12月 野田ゆたか自選俳句

人去れば千鳥のものとなる小島
その中に斥候らしき鴨一羽
思出もまた褪せやすし枯芙蓉
街暮れてポインセチアに夜の顔
ずわい蟹胴はかく取りかく食べる
境内に始まっている年用意
数へ日の動き出したる厨かな
<この月の出来事>都営バス24時間営業の試行が、渋谷駅-六本木間で始まる。
