2020年度 野田清月/月例自選俳句 へ


  
2020年1月 野田清月の自選俳句

パソコンのマウス休まず子年明く
掛軸の朝日絢爛(けいらん)床の春
二階より呼び止められし寒日和
アロハ脱ぐ帰国空港寒満月
見当たらぬ重軽石や雪景色
六道の活路探せり風冴ゆる
刻なしの鐘鳴りやまず初薬師
  
<この月の出来事>Windows7のサポートが終了。
  

  
2020年2月 野田清月の自選俳句

静電気はじくドアノブ余寒なほ
郷愁のSLの旅春動く
梅東風や蹴上に古りし発電所
無限大証(あか)す算額梅の宮
誰からもメールの無き日冴返る
水琴窟耳を澄ませば春の音
一服の茶筅さばきに春を聞く
  
<この月の出来事>新型感染症COVID-19が世界的に広がる。
  

  
2020年3月 野田清月の自選俳句

隔離てふ浮世の春の流行風邪
雪の果術後フォローの二年目に
はこべ草天保山の高からず
ブランチの馥郁(ふくいく)たる香蓬パン
鰆とはよく出来た文字浜の市
生き方を変へしか番残る鴨
幼なき日今に虎杖手折りけり
  
<この月の出来事>COVID-19は、規模が最も大きいと世界保健機関が宣言。
  

  
2020年4月 野田清月の自選俳句

戸惑ひの非常休校春が逝く
浅蜊舟戻りきし浦暮色濃し
牛蛙捕食上手を嫌がれし
飛花落花八十路の坂を吹かれゆく
珈琲はブラックが好き花の昼
一と時を句材と対峙春の雲
いつ暮れし生駒の端山春の月
  
<この月の出来事>新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大により、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・大阪府・兵庫県・福岡県の1都1府5県で、緊急事態宣言が発令される。
  

  
2020年5月 野田清月の自選俳句

上り鮎ラッシュ魚道を我先に
古茶好きの吹けば飛ぶよな意固地かな
離岸船先づ後退り卯浪へと
江戸前の寿司には成れぬ鱚逸話
罌粟坊主流行やまひの去る気配
持ち時間使ひ果たせし牡丹散る
一鼓にて夜陰を制し薪能
  
<この月の出来事>新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い全国高等学校野球選手権大会が中止。
  

  
2020年6月 野田清月の自選俳句

荒梅雨にけぶし塔の五層かな
余生者はなべて中流花南瓜
虎尾草や守人もなき武将塚
生駒峰に懸りし梅雨の月紅し
子を叱る声の筒抜け青簾
葭切や京三川の合流地
疫病の感染避けし梅雨籠
  
<この月の出来事>囲碁の芝野虎丸棋士が、史上最年少の20歳7ヶ月で名人・王座・十段に就任。
  

  
2020年7月 野田清月の自選俳句

仮初めの道行なりし藍浴衣
パソコンの疲れ目癒やす灸花
その親は食へない奴よ茗荷の子
疫病を避くる独りのソーダ水
洩れてくる昭和演歌や夜の秋
時差ぼけの刻の調整籠枕
妻料る義歯に優しき胡瓜揉み
  
<この月の出来事>千葉県習志野市に隕石が落下。
  

  
2020年8月 野田清月の自選俳句

病床に座せし黙祷終戦日
盆棚の除菌を済ませ僧を待つ
疫病の神がちまたに流れ星
限りある命惜しめよ秋の蝉
珈琲のハンドドリップ古都の秋
借景の樹々暮れなずむ窓の秋
レトロ風見直さられし扇風機
  
<この月の出来事>としまえんが閉園し、94年の歴史に幕を閉じる。
  

  
2020年9月 野田清月の自選俳句

露の世の家居つづきし疫病裡
一湾の闇深めゆく野分波
衣被独り一つの手塩皿
予後の身に風柔らかし秋海棠
外のことそ知らぬ体に秋簾
俳諧のライン往交ふ今日の月
鬼の子の闇深めゆく啜り泣き
  
<この月の出来事>新型コロナウイルス世界の累積死者が650万人以上になる。
  

  
2020年10月 野田清月の自選俳句

疫病のワクチン遅々と秋深む
末枯は野路を這ひ行く吾が影に
湖上へと峰離れゆく秋の雲
信楽の展示狸の風は秋
ついでにと庭師添水を調整す
松手入しばし思考の空鋏
偲ばるる事のみ多し十三夜
  
<この月の出来事>アニメ映画「鬼滅の刃 無限列車編」の公開。
  

  
2020年11月 野田清月の自選俳句

添削の朱筆一と文字冬ぬくし
切干を拡ぐ颪の通り道
落葉踏む天底抜けの並木道
俳諧の拡げし余生文化の日
宮小春源氏名らしき恋の絵馬
大綿の影の失せたる空虚かな
錦城の松深みどり小六月
  
<この月の出来事>東アジア地域15ヶ国よる自由貿易経済圏が誕生。
  

  
2020年12月 野田清月の自選俳句

極楽は春と説く僧息白し
駅明り及べる屋台おでん酒
越し方の手紙焚くごと菊を焚く
川涸れて風の遊べる沈み橋
えり袖に鴨の一団陣を組む
疫病の闇深めゆく虎落笛
督促の行間に見し鎌鼬
  
<この月の出来事>小惑星探査機「はやぶさ2」の回収カプセルが地球に帰還。