2018年度 野田清月/月例自選俳句 へ


  
2018年1月 野田清月の自選俳句

樹々醸す糺の杜の淑気かな
人日や平成の御代三十年に
初旅の土産に大津絵魔除け鬼
雪嶺の風を集めし和紙の里
蝋梅の香のほどけきし狭庭かな
日薬も施術のひとつ春を待つ
水占の吉文字浮きし寒九かな
  
<この月の出来事>草津白根山の本白根山が噴火。
  

  
2018年2月 野田清月の自選俳句

雪解靄堂塔覆ひ隠しゆく
香を仄と円窓亭の梅月夜
半分は霧らひし湖の余寒かな
再会の互ひに喪服冴返る
かんの枝跳ね上げし雪解かな
波の穂を掬ひて飽きず白魚網
末黒野に雨の点滴ゆきわたる
  
<この月の出来事>俳人 金子兜太(98歳)さん逝去。

  

  
2018年3月 野田清月の自選俳句

生き方を選べぬ鴨の帰りゆく
初恋に時効なかりし遠霞
鏡では見えぬ春塵くしけずる
父母ともに遠忌となりし彼岸寺
鯉こくを啜り八荒聞く夜かな
短冊のほどよき滲み水温む
荒東風の没日波間にまろび落つ
  
<この月の出来事>中央本線のスーパーあずさが引退。

    

  
2018年4月 野田清月の自選俳句

春風や女性教頭着任す
人影の絶へし参道躑躅燃ゆ
偕老の身の辺に降りし桜蘂
比翼塚囲ひし竹の秋寂びし
石(いわ)走る垂水を寄せし山葵沢
京洛へ入りし大橋月朧
手秤で鬻げる蜑の鹿角菜かな
  
<この月の出来事>大阪市交通局が民営化。大阪メトロと大阪シティバスに移行。
  

  
2018年5月 野田清月の自選俳句

雨霽れし天に玉解く芭蕉かな
五月の空展く強打の大飛球
渡りきし通天橋の若葉風
庭下駄の出船のかたち夏に入る
句会での出逢ひと別れ花は葉に
川漁師茅花流しに舟を出す
合唱の和音澄みゆく椎若葉
  
<この月の出来事>藤井聡太が竜王戦4組に昇級。史上最年少(15歳9ヶ月)の七段となる。
  

  
2018年6月 野田清月の自選俳句

梅雨寒の胸にひやりと聴診器
尾を放つ蜥蜴の命忖度す
順路逸れ方位失ふ木下闇
ことさらに殺意を込めし蚊を叩く
梅雨は憂し匂ひ引きずる塵芥(じんかい)車
端々(はつはつ)に田畑うるほし虎が雨
亀石の甲羅晒せし風薫る
  
<この月の出来事>大阪府北部で震度6弱の地震を観測。大阪府で震度6以上の地震は観測史上初めて。
  

  
2018年7月 野田清月の自選俳句

地震跡の炎暑の石を積みなほす
犬に水与へ打水終りけり
雷鳴の止むを待ちゐし指栞
青柿やいじめつ子などなき学舎
街騒をかき消す苑の蝉時雨
炎天をのこのこ出掛けゆく句会
空蝉に空蝉すがる葉末かな
  
<この月の出来事>日本と欧州連合が経済連携協定に署名。
  

  
2018年8月 野田清月の自選俳句

とうとうと口説かれし愛踊唄
閉会に残れる暑さ甲子園
土地訛懐かしく聞く展墓かな
御詠歌の刻移りゆく星月夜
送火のすぐに燃え果つ虚空かな
秋の蝉刻惜しむかに鳴きつのる
緋と燃ゆるカンナ眩しき雨あがり
  
<この月の出来事>世論調査結果、生活に満足と回答した人が 74.4% との調査開始以来最高となった
  

  
2018年9月 野田清月の自選俳句

小流れの水澄む音の園巡る
村興してふ段畠の蕎麦の花
三日月を支へし塔の五重かな
松籟の冷やかなりし法隆寺
寄り合ひて雨月の宴始まれり
目の老をあがなひきれず夜なべ置く
化野の風の澄みゆく竹の春
  
<この月の出来事>北海道胆振東部地震。厚真町で震度7を観測。北海道全域で停電。
  

  
2018年10月 野田清月の自選俳句

秋日濃し執念の鷺餌を待てる
追ふ度に数増す峡の稲雀
片減りのすすむ履き癖冷まじく
菊の香や故人称へし位記勲記
終ひ湯に追焚ボタン押す夜寒
新酒待つかに窯出しの陶狸並む
渡り鳥峡のきざはしのぼりゆく
  
<この月の出来事>アップルがiPhone XRを発売。
  

  
2018年11月 野田清月の自選俳句

リーゼント決めしはむかし木の葉髪
淀君の終の城裏夕時雨
路地にまで竹瓮積みあげ蜑家かな
金城の松深みどり小六月
冬紅葉一雨ごとに散り急ぐ
照り翳る日に綿虫の浮きて消ゆ
不参加者の風評しきり木の葉舞ふ
  
<この月の出来事>NASAの火星探査機インサイトが火星に着陸。
  

  
2018年12月 野田清月の自選俳句

星影の佳境に入りし霜夜かな
白息のやがて消えゆく朝稽古
内陣の灯り動ぜぬ冬の蝿
古備前の値踏みきまらぬ懐手
古き日の手紙焚くごと菊を焚く
樹氷林育てし風の募りをり
飾りたて元号のなき暦売る
  
<この月の出来事>BSで本格的に家庭向け4K 8Kテレビ放送が開始。