2016年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2016年1月 野田ゆたか自選俳句

食積に喜寿の祝意の詰められし
愛敬の額の黒子初鏡
双六の急がば回れてふ陸路
水仙に荒き涛風海暮るる
雪兎暮れて狭庭に放ちけり
百薬の長てふ薬寒見舞
落ちてなほ光りを返し寒椿
  
<この月の出来事>沖縄県で初めて雪を観測。
  

  
2016年2月 野田ゆたか自選俳句

孫ほどの医師の脈診春の風邪
山襞に一筋立てり雪解靄
句会誌のできてインクの匂ふ春
大琵琶の波立ち上げて春一番
公魚の向ふ合せ一呼吸
紅梅の翳りへ雨意の風兆す
ビル陰にひそと寺あり針供養
  
<この月の出来事>新東名高速道路 浜松いなさ・豊田東間開通。
  

  
2016年3月 野田ゆたか自選俳句

啓蟄の退院の荷のこまごまと
薬石の効有難く青き踏む
夕東風や車呑込みフェリー発つ
春泥を拭ひ車中の人となる
火の粉舞ふ修二会の闇の風荒し
ランナーのラストスパート陽炎へり
長閑けしや牛反芻を繰返す
  
<この月の出来事>北海道新幹線 新青森駅・新函館北斗駅間の開業。
  

  
2016年4月 野田ゆたか自選俳句

堂塔を浮かべて花の潦
花冷の撫牛の額つややかに
舞妓等の往き来の祇園花朧
ふいに風曲がりて蝶の翻る
エジソンの碑の暮れなづむ竹の秋
大琵琶の果てしなく晴れ風光る
騙されることも楽しむ四月馬鹿
  
<この月の出来事>電力自由化 家庭用途まで適用される。
  

  
2016年5月 野田ゆたか自選俳句

入構の貨車の一笛若葉風
葉桜や小瓶に甲子園の土
穴子鮨食ひねエとせがみたてらるる
開花告ぐ標準木の花は葉に
風すさぶ余花の武将の墓朽ちて
鯉こくを啜る八十八夜寒
被災地に知る人のあり桐の花
  
<この月の出来事>バラク・オバマ米国大統領が初めて広島市を訪問
  

  
2016年6月 野田ゆたか自選俳句

淨闇をなほ深めゆく蛍川
一匹の蚊に嬲られて寝もならず
控へめも美徳の一つ蝸牛
ぼやきても詮無き恙梅雨寒し
結界の石みな佛苔の花
その高さ絵筆で計る夏木立
天麩羅のからりと揚がる五月晴
  
<この月の出来事>公職選挙権年齢が18歳以上となる。
  

  
2016年7月 野田ゆたか自選俳句

初蝉の息の続かず日暮れけり
水遊び足りし悪童寝落ちけり
峻嶮を登り来掬す石清水
かはたれに咲きそむ蓮の匂ひかな
和へものに始まる京の鱧づくし
喉仏鳴らし一気にビール飲む
指呼のもの消しゆく夕立飛沫かな
  
<この月の出来事>ポケモンGO 日本でのサービス開始。
  

  
2016年8月 野田ゆたか自選俳句

雛僧の襷凜々しき施餓鬼寺
二男二女育てし母の墓洗ふ
折からの雨に手間取る墓参かな
野放図に咲ける捨て植ゑカンナかな
蜩の鳴き細り山暮れゆける
かはたれの朝顔どれもが咲き競ふ
初秋や白波尖る都井岬
  
<この月の出来事>NHKが4K・8Kの試験放送をBSで始めた。
  

  
2016年9月 野田ゆたか自選俳句

虫の音に寝落ちゆく子の手のぬくし
八朔や糺の杜の闇深し
花の数日ごと減りゆく秋なすび
蟋蟀の闇の更けゆき風募る
わが夜長妻の夜長と灯を別に
通り抜く風筋見せし乱萩
手送りに杯ゆきわたる月見句座
  
<この月の出来事>豊洲市場青果棟の地下空洞が発覚。
  

  
2016年10月 野田ゆたか自選俳句

鬼の子の闇に溶けゆく啜り泣
潮騒の絶えざる岬鷹渡る
出来の佳き新酒と進め上手かな
稲雀穂波に浮かび又潜る
物盗りの猿の見てゐる添水かな
男山神寂ぶ紅葉且散れり
京出でて淀へと落ちてゆける鮎
  
<この月の出来事>都心部56万戸の大規模停電。
  

  
2016年11月 野田ゆたか自選俳句

口ずさむ股旅演歌冬ぬくし
朴黄葉スイッチバックしつつ落つ
蓮の実の飛べる子離れ親離れ
冬うらら等間隔の浜釣師
休耕田ひそと苗代茱萸の花
人知れず咲きし柊鬼門守る
庭前の山梔子ほのと帰り咲く
  
<この月の出来事>富山県立山(室堂)にて雪崩が発生。
  

  
2016年12月 野田ゆたか自選俳句

初雪を舞はせ天保山暮るる
高畝の冬菜のみどり盛上る
返信のメール待つ間の湯ざめかな
鴨の陣分隊ごとに寝落ちゆく
お毒見は俳句奉行よふぐと汁
たこ焼のよく売れてゐる師走かな
湯豆腐の箸を上手に異邦の娘
  
<この月の出来事>糸魚川大火が発生。SMAPが解散。