2014年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2014年1月 野田ゆたか自選俳句

雲一朶かかる生駒峯初景色
動き初む生駒の端山春隣
粋筋のついで詣での礼者かな
書初の筆を汚して自戒の句
添ふ影の雪女郎めき町更くる
四日はや常の暮しに嫁が君
寒椿狭庭の黙をほどきゆく
  
<この月の出来事>地震を原因とする福島第一原子力発電所を廃止。
  

  
2014年2月 野田ゆたか自選俳句

風見鶏料峭の風ほしいまま
畦を焼く背らに金剛峯昏れかぬる
潮騒の絶ゆ間なき浜若布干す
恋猫の夜すがら声の喧しく
殉教の裔生くる世に絵踏なく
島ぬちの日裏日表いぬふぐり
立春の日差し諾ふ朝かな
  
<この月の出来事>文化審議会国語分科会「異字同訓」の使い分け例を公開。「会う」「合う」「遭う」、「座る」「据わる」など。
  

  
2014年3月 野田ゆたか自選俳句

古雛の笛の失せたるまま飾る
朝の日を柔らに返し草青む
雨霽れて東風鮮しき狭庭かな
忌祭にと少し多めの菊根分
蒲公英のしきりに絮の飛ぶ日和
風防の肴にしてはほの苦し
新調の墨なじみゆく春の水
  
<この月の出来事>日本一の高層ビル、あべのハルカスが全面開業。
  

  
2014年4月 野田ゆたか自選俳句

三椏の花咲く辺より紙の町
背ナに聞く詣で帰りの御忌の鐘
廃校の寂びし廂に燕の巣
街騒の遠き草庵鳥交る
四月馬鹿寡黙な父に誰も似ず
甲羅干す亀の猿沢の池日永
口ずさむ野崎小唄や菜の花黄
  
<この月の出来事>日本の消費税率が5%から8%に増税される。
  

  
2014年5月 野田ゆたか自選俳句

何釣るか浦島草の棹延ばし
戦後派も老いて憲法記念の日
風騒ぐ借景の木々夏めける
更衣済ませて老いの痩せ我慢
一歩づつ万緑深めゆく山路
葉桜の木洩日揺るる女坂
光背に夕日重ねて練供養
  
<この月の出来事>AKB48握手会傷害事件が発生。
  

  
2014年6月 野田ゆたか自選俳句

蝸牛動く構への角を出す
疲鵜の手綱捌きて叱咤せる
買ひ戻る大きな箱の夏帽子
尺蠖や少し鯖読む生れ年
蝋涙の一灯仄と五月闇
竹落葉小径に小さき花咲いて
信念にゆるぎなかりし立葵
  
<この月の出来事>日本学術会議が、選択的夫婦別姓制度の導入を提言。
  

  
2014年7月 野田ゆたか自選俳句

機町の名残を今に棉の花
草庵を包みきりたる蝉時雨
意を決し炎暑に一歩踏み出せる
水郷の泥鰌鍋食べ旅果つる
風蘭の香る軒端の風の止む
驟雨避く軒端に開く破れ傘
花魁草咲ける順路に脂粉の香
  
<この月の出来事>最高裁が「永住外国人は生活保護法の適用対象ではない」と判断。
  

  
2014年8月 野田ゆたか自選俳句

盆棚にペット遺影も飾りけり
大根蒔く戦無き世の豊かさに
パソコンを斜め読みして稲光
邂逅の言葉交はせし踊の輪
秋気澄む生駒の嶺の雲高し
刑場の跡地小暗し施餓鬼寺
星飛ぶや打者一巡のタイガース
  
<この月の出来事>広島市内の住宅地で豪雨により同時多発的に土石流が発生。
  

  
2014年9月 野田ゆたか自選俳句

一湾の闇を深めて野分波
秋蚊なほ油断のならぬ庭掃除
勅祭の格式今も放生会
土石流ありしは昔ほたる草
吹く風に飄々とじやれ猫じやらし
注ぎ足してちびりちびりと月見酒
暮れてより虫の浄土となる庵
  
<この月の出来事>長野県と岐阜県の県境に位置する御嶽山が噴火。
  

  
2014年10月 野田ゆたか自選俳句

大枝に踏んばり神の松手入
大の字を抱きて粧ふ如意ヶ嶽
ゆく秋の流るる時のとどめ得ず
初鴨の陣ゆるぎなし浮御堂
火の山にかかる笠雲馬肥ゆる
根限り鳴く神鶏の冬近し
薮騒は魑魅(ちみ)の声めき秋寂ぶる
  
<この月の出来事>青色発光ダイオードの開発により、赤崎勇、天野浩、中村修二のノーベル物理学賞決定。
  

  
2014年11月 野田ゆたか自選俳句

冬紅葉日和くずしの風に散る
釣人の去りたるあたり荻の声
北窓を塞ぎてこけし工房舎
冬晴や碑は終焉の地と記す
風の如去りゆく月日冬に入る
決心の付きたる歩み落葉舞ふ
残心を愛しみし後の十三夜
  
<この月の出来事>長野県神城断層地震発生。
  

  
2014年12月 野田ゆたか自選俳句

鴨川に群れて人恋ふ百合鴎
使ひ捨てマスクに表裏ありにけり
山眠る鉄鎖に閉ざす浄土窟
濠に慣れ衛士にもなれて鴨浮寝
初雪の小さき達磨のすぐ溶ける
寒禽の静寂破りし古城かな
川涸れて風音走る流れ橋
  
<この月の出来事>毎日新聞朝刊の漫画『アサッテ君』(東海林さだお作)が13,749回で連載終了。