2012年1月 野田ゆたか自選俳句
生駒嶺の空穏やかに初明り
初髪の合せ鏡に福白髪
乳の実の父は仏や初諷経
なづな打つ唄は知らねど我がリズム
逸品は飴煮にしたる寒の鮠
消灯の闇深ければ凍て早し
晴れてゐて風花舞へる喫煙所
<この月の出来事>北朝鮮漂流船問題が発生。
2012年2月 野田ゆたか自選俳句
立春のすぐには陽気定まらず
鎌倉の海荒れてをり実朝忌
片栗の花うつむきて犬の墓
松籟や湖に沿ふ町春浅し
相傘の肩のふれあう春時雨
国生みの島波立てて春一番
惜別はいつも突然冴返る
<この月の出来事>東京スカイツリーが完成。
2012年3月 野田ゆたか自選俳句
黒々と畝立上げて春の土
彼岸会や黄泉近からず遠からず
一幅の風情なしたる椿かな
窓開けて紫煙春塵容認す
木の芽風狭庭の黙をほどきゆく
啓蟄や出合頭に知己の貌
名草の芽踏んではならぬ庭手入
<この月の出来事>新幹線100系と300系電車が引退。
2012年4月 野田ゆたか自選俳句
朧夜の虚実の境模糊として
菜の花の誰れはばからぬ紫煙かな
川風の飄々として春夜かな
引力と打力のはざま紙風船
夜桜で終る一日フリーパス
過ぎてゆく日にち薬や夏近し
登りきて雲上閣は花の雲
<この月の出来事>ダイバーシティ東京プラザが開業。
2012年5月 野田ゆたか自選俳句
招かざる羽音増えゆく夏の庭
いけめんは並べて草食業平忌
岩の瀬の景に溶込み山女釣る
新緑をまっすぐ抜けてモノレール
日食の果てて戻せる若葉影
蔀戸の開け放たれて寺薄暑
ふり返る職にある日の街薄暑
<この月の出来事>天皇・皇后がエリザベス2世即位60周年記念行事出席のためイギリスを訪問。
2012年6月 野田ゆたか自選俳句
駄々つ児の弟が持つ蛍籠
夕暮れて旋律高む河鹿かな
炎天に一歩踏出す決意かな
逆転に暑さ忘れてをりしかな
弓なりの愛確かめて糸蜻蛉
たつた今孵つたばかり燕の子
七変化戦火の悲話を秘めし庭
<この月の出来事>6歳未満の男児が脳死と判定され、臓器移植手術が行われた。
2012年7月 野田ゆたか自選俳句
しばらくは汗を忘れて鍾乳洞
確かめて風鈴を吊る風の道
汗忘れをりし車中の一時間
浜風を分かちぬ我とはまなすと
駈込みて化粧直す娘冷房車
引返すこと許されず道をしへ
露涼し花の草の名知らずとも
<この月の出来事>梅雨前線豪雨、大分県下で浸水・土砂崩れ被害が相次ぐ。
2012年8月 野田ゆたか自選俳句
風鈴の鳴り止まぬ日や典子の忌
偲ぶ人星に重ねて霊送
母語る終戦の日の遅昼餉
主語伏せて願の糸に結ぶ愛
夕風に疲れ癒せよ酔芙蓉
雲切れてカンナ眩しく緋と燃ゆる
朝顔や白の主張の清々し
<この月の出来事>銀座でオリンピック日本選手団メダリスト凱旋パレードが行われた。
2012年9月 野田ゆたか自選俳句
万の露育てし庭の夜明かな
ささ濁る楢の小川の野分あと
築山の闇を深めて虫時雨
きざはしの外されてゐる雨月かな
赤蜻蛉去りて一番星の影
行列が出さう日照雨の芒原
拙句とは謙遜されて敬老日
<この月の出来事>橋下徹大阪市長を代表、松井一郎大阪府知事を幹事長とする日本維新の会が旗揚げ。
2012年10月 野田ゆたか自選俳句
落つものに下り簗てふ修羅場かな
暮れてより一人の時間秋惜む
空振でツーストライク秋高し
秋風の飄々として湖中句碑
行秋の流るる時の澄むばかり
柳散るランドマークの天守閣
新蕎麦に秘境の旅を栞りけり
<この月の出来事>マイクロソフトがWindows 8を発売。
2012年11月 野田ゆたか自選俳句
ぬつと友現れさうな小春かな
竹生島人遠ざけて冬紅葉
枯葉いま生駒颪に載る軽さ
罪なくて大根どもの吊さるる
冬晴の正眼にあり郷土冨士
俳聖の臨終地の碑銀杏散る
冬帝の吐く息荒し日本海
<この月の出来事>石原慎太郎と平沼赳夫は新党「太陽の党」の結成を表明。
2012年12月 野田ゆたか自選俳句
ルミナリエてふ華やぎも師走かな
隣室の気配の去りて冬の月
清きものいつしか褪せて蓮枯るる
焼鳥の炉にこだはりの炭火かな
フォワードの攻むる掛声息白し
聖樹には星の上にも雪積る
よく吠えて犬に数へ日あるやうな
<この月の出来事>群馬県の金井東裏遺跡から6世紀初(古墳時代後期)の甲(よろい)を着けた成人男性1名の人骨が見つかったと発表した。