2011年1月 野田ゆたか自選俳句
雪舞ふや始業点検心して
雪折や昨夜の言葉のなぞ深む
しばらくは悴む指の夕佳亭
寒紅や母娘が口を尖らせて
杜氏らに昼夜なかりし寒の内
投扇興簡単さうに見えてをり
初比叡仰ぐ俳人目線かな
<この月の出来事>芸人間寛平が地球マラソンを完走。走行距離約41,000km。
2011年2月 野田ゆたか自選俳句
春がふと後戻りして朝の雨
豆撒くや吾が胸中の子鬼にも
下車駅は建国祭の賑はひに
涅槃図の猫畏まる東福寺
山動く春の分裂二次三次
犬ふぐり遍く日差し受止めて
恋猫の愛に結界なかりけり
<この月の出来事>任天堂の携帯型ゲーム機、ニンテンドー3DSを発売。
2011年3月 野田ゆたか自選俳句
その所在香りが告げて夜のミモザ
陽炎や的の揺らげる射撃場
借竿の旅の慰み諸子釣る
出向は仮の滞在鳥帰る
踏青や桃源郷を模す苑に
来し方を常に証して蜷の道
蛇穴を出でて句帳を持歩く
<この月の出来事>東日本大震災が発生。
2011年4月 野田ゆたか自選俳句
行春のたをやぐ時の流れかな
初音聞く水の美味しい陶の郷
お忍びの猫が出でゆく朧月
うららかや母が引杖忘れをり
旬日のたちまちといふ落花かな
花屑を浮かべて利休名水井
亀鳴くや地震報道唐突に
<この月の出来事>東日本大震災の余震とされるの地震が発生。宮城で震度6強を記録。
2011年5月 野田ゆたか自選俳句
青々と名草醜草夏に入る
菖蒲の香仄かに今日の湯船かな
薔薇活くる.ジーパン似合ふ娘の立居
等分に香を注ぎ分けて新茶かな
出航の烏賊釣船が星となる
パトカーが車間詰めくる夏霞
新緑にビルを浮かべて中之島
<この月の出来事>ユネスコの「世界の記憶」に、山本作兵衛作の「筑豊炭鉱画」などの登録が決定。
2011年6月 野田ゆたか自選俳句
算額の無限大へと風薫る
一と雨が来るぞ来るぞと蟻の列
割算ができる童らさくらんぼ
みずすまし己が水輪を抜けきれず
夏服の肩のふれあふ一つ傘
今年また同じ木にゐて蝸牛
水位計沈めて雨後の簗瀬かな
<この月の出来事>皆既月食が出現。
2011年7月 野田ゆたか自選俳句
物はみな佛よ瓜の青佛
源流を叡山に置き造り滝
羅の黒が目を引くロビーかな
向日葵の呼名に背く花の向き
蓮咲くや名句数多を生みし池
雷鳴に散りゆく子らの早さかな
咬みさうな犬の貌出す葭簀かな
<この月の出来事>Mac OS X LionがMac App Storeをリリース。
2011年8月 野田ゆたか自選俳句
反原発者あまた居て夏果てぬ
蜩の遠ざかりゆく坐禅かな
早起きの得の一つに涼新た
墓参日を最優先に組む予定
ありし日の父の座に着き盂蘭盆会
語部の声の澄みゆく星月夜
白雲の立ちて残暑を去らしめず
<この月の出来事>タレントの島田紳助が芸能界引退を発表。
2011年9月 野田ゆたか自選俳句
約束の反故になりたる雨月かな
煌々とホ句の余情をつなぐ月
馬追の闇深めゆく狭庭かな
敬老日思へば遠き日の華燭
点となる出航船の露けしき
名残る萩生駒颪が梳きとほる
虫の音の減りゆく夜々を惜みけり
<この月の出来事>民主党代表の野田佳彦が内閣総理大臣に就任。
2011年10月 野田ゆたか自選俳句
空路には更に秋天ありにけり
夜べの雨色ぬき去りて天高し
どちらかと言へは紅茶を菊の庭
小鳥きて哲学の道つながりぬ
朽ちてなほ紅をとどめて烏瓜
又一つ木の実が落ちて水子墓
狛犬の足元撫づる風は秋
<この月の出来事>世界人口が70億人を突破。
2011年11月 野田ゆたか自選俳句
雨晴れて始まる木の葉しぐれかな
綿虫の空にまぎるる日差かな
滑走路光る離陸の小夜時雨
四阿に木の葉散り敷き懐古園
報道に消息を知る文化の日
七五三祖母もおめかし写真撮る
年金の暮し構へて冬に入る
<この月の出来事>大阪府知事と大阪市長の選挙が、同日投開票。大阪府知事に松井一郎、大阪市長に橋下徹が市長に。
2011年12月 野田ゆたか自選俳句
底冷や東京よりも京よりも
空港を出でて短日始まりし
息白く内緒話の洩れてをり
冬芽抱く弧を高くして御陵道
売れる物売れ残る物暮早し
来る鴨の寝床整ふ湖の色
地に落ちし聖樹の星を戻しけり
<この月の出来事>アメリカ・ハワイ産の遺伝子組み換えパパイアの輸入解禁。