2010年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2010年1月 野田ゆたか自選俳句

離陸待つ一機一機に初明り
同居者は嫁が君とも仏とも
例年の読初なりし芭蕉の句
夕映をとどめて岬の野水仙
風花の二月堂へと歩を起す
雪晴れて陵の松昏れ残る
氷面鏡張替へ今朝の金閣寺
  
<この月の出来事>日本航空と子会社2社が会社更生法を申請。
  

  
2010年2月 野田ゆたか自選俳句

兄弟にバレンタインの日の笑顔
つんつんと末黒の芒立つ野末
梅が香の仄と河内の一宮
方言の飛び交ふ野火の煙越し
混浴と言ふは足湯よ春の風
わが影をその隅に置き涅槃絵図
計画の日程余寒に心して
  
<この月の出来事>石垣島で日本最古となる2万年前の人骨を発見。
  

  
2010年3月 野田ゆたか自選俳句

鬨の声あぐるが如く木々芽吹く
ぬばたまの闇を深めて御水取
黄沙降る蔀閉ざして閻魔堂
山彦の吾を呼ぶ声木の芽風
水草生ふ流れ光れる音の中
鳥渡るお召し車列を追ひ申す
灯を消せば雛の衣ずれらしき音
  
<この月の出来事>大丸と松坂屋が合併し、「大丸松坂屋」が発足。第二京阪道路が開通。
  

  
2010年4月 野田ゆたか自選俳句

お点前を受くるも花に浮かれつつ
松の芯つんつん立てて登城口
山梔子の花匂ふとき風変る
逃水に浮かびて芭蕉終焉碑
日当りて花冷ゆるむ堂宇かな
蛤は丑三つ時に夢を吐く
邂逅の恩師に友に春の風
  
<この月の出来事>殺人罪・強盗殺人罪の公訴時効廃止など。
  

  
2010年5月 野田ゆたか自選俳句

酒用に一ト株を選る菖蒲かな
手を貸して妻結い直す粽かな
末の子も一家をなせり柏餅
母の日や佇む神宮遙拝所
講衆は朝より多忙練供養
アドリブに奏者の知れて祭笛
湖からの風は優しく麦の秋
  
<この月の出来事>暴力団による大相撲野球賭博問題が報じられる。
  

  
2010年6月 野田ゆたか自選俳句

居るやうに見ゆる不在の簗番屋
藻の花の流れゆらげる光かな
老鴬は息整ふる間を持てり
時なしの声張上げて羽抜鶏
梅雨雲を抜けて空路の青空に
影すてて夏蝶吹かれゆきにけり
槍を出し動く構への蝸牛
  
<この月の出来事>日本で子ども手当の支給開始。小惑星探査機「はやぶさ」が7年ぶりに地球に帰還。
  

  
2010年7月 野田ゆたか自選俳句

老らくという涼しさと水音と
月見草咲き初め誰も居ない湖
珈琲を飲む炎天に出るために
寄算の合はぬ氷菓の阿弥陀くじ
押照るや周航歌碑の月涼し
万象の音打消せる神の滝
街騒を遠音に端居心かな
  
<この月の出来事>Windows 2000のサポート終了。
  

  
2010年8月 野田ゆたか自選俳句

神域の秋を訪ひ来て奥の宮
わだかまり失せて二人の銀河濃し
幾たびの苦難に耐へて稲の花
疲れ目を庭に休めて鳳仙花
稲妻の掻乱したる夜の静寂
四つ脚の茄子もならべて草の市
一と雨に夕べ秋めく身の辺かな
    
<この月の出来事>夏の高校野球大会で沖縄県の興南高校が初優勝。
  

  
2010年9月 野田ゆたか自選俳句

薮騒ぐ茶筅の里の竹の春
朝市の枝豆土も葉も着けて
月と寝て身近に思ふおけさ節
竹を切る音の降りくる法の山
美容師に眉を引かせて敬老日
茹であげし枝豆どんと神巨戦
萩祭あすに控へて咲競ふ
  
<この月の出来事>H-IIAロケット18号機により準天頂衛星「みちびき」が打ち上げ。
  

  
2010年10月 野田ゆたか自選俳句

立砂を依代として重九かな
手で刈るも機械で刈るも豊の秋
門川の澄みて社家町秋深し
末枯れて尊き何か去る如し
ブティックは華やかに冬近づけて
ゆく秋の声なき声を聞く夜かな
庭下駄は片づけられて冬隣
  
<この月の出来事>たばこ税の増税。「マイルドセブン」の定価が300円から410円に。
  

  
2010年11月 野田ゆたか自選俳句

冬の旅蟹が好きとか嫌ひとか
茎漬で足りる茶粥でありしかな
冬晴の航白々と警備艇
冬帝や日がな流るる雲の影
山茶花や汽笛相寄る浦漁港
古希過ぎて叙勲の栄に文化の日
晩秋の賛歌に和して双光章
  
<この月の出来事>千葉ロッテマリーンズが、シーズン3位から日本シリーズ優勝。
  

  
2010年12月 野田ゆたか自選俳句

髭剃れば鏡の中に落つ寒さ
吼犬に追はるるやうな師走かな
人棲まぬ家に咲きゐて枇杷の花
大川の風息荒し冬柳
枯れてなほ焚かれてもなほ菊香かな
パソコンの部屋より始む年用意
これだけは生くる十年日記買ふ
  
<この月の出来事>絶滅したとされていた魚「国鱒」を再発見。