2015年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2015年1月 野田ゆたか自選俳句

存問の言の葉嬉し賀状かな
洛陽に通りづくしの手毬唄
宝引の騒ぎはしやげる大当り
余生なほ自在に生きて薺粥
三寒に続く三寒來ることも
月影の凍てゆく夜毎の伽藍かな
滝飛沫五体に浴びて寒垢離女
  
<この月の出来事>イラク・レバントのイスラム国が日本人を拘束。
  

  
2015年2月 野田ゆたか自選俳句

末黒野に焦げて散らばる鹿の糞
梅が香や詩情豊かに句を詠む娘
瀬の音の日ごと高まる猫柳
花街路地恋に呆けし猫の往く
花粉吐く杉情報の恐ろしき
愛の日のチョコより和菓子好む爺
一湾の闇を深めて春一番
  
<この月の出来事>すみだ水族館でチンアナゴとニシキアナゴの産卵行動の動画撮影に成功。
  

  
2015年3月 野田ゆたか自選俳句

判じものめけるの字の蜷の道
いかな子の初の浜値の安からず
うかつにも踏み躙りたる名草の芽
子の代に御座譲られし雛かな
碑に風香りたつ花ミモザ
船波の寄すたび水漬き芦の角
磨崖仏見そなはす野に雲雀鳴く
  
<この月の出来事>寝台特急「北斗星」の廃止。ブルートレインが完全に消滅。
  

  
2015年4月 野田ゆたか自選俳句

吹き交す汽笛の朧月朧
清水の舞台浮かびて花の波
背の高き坊が大将葱坊主
行間の一場拡げ蜃気楼
通学の子等覗きゆく蝌蚪の水
就中(なかんずく)落花舞ひ散る嵐山
釣人の群るる突堤暮かぬる
  
<この月の出来事>東京都渋谷区で『男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例』施行。
  

  
2015年5月 野田ゆたか自選俳句

竿の穂を引き込む魚信青葉潮
篤農の控へめなりし軒菖蒲
遺伝子のこと執拗に問ふ薬の日
土佐に泊つもてなし嬉し初鰹
金雀枝に翅音集めたる亭午
アカシヤの咲ける空あり中之島
忌を修し終へて卯の花月夜かな
  
<この月の出来事>大阪都構想の是非を問う住民投票が行われ、反対多数で否決。
  

  
2015年6月 野田ゆたか自選俳句

一村にゆき渡りたる田植水
意を決し炎暑の街へ踏み出でぬ
万緑を抽きて堂塔街を統ぶ
梅雨滂沱蔀閉ざして閻魔堂
幽玄の闇深めゆく螢川
梅雨入の深まりゆける夜の闇
旅立の心昂ぶり明易し
  
<この月の出来事>選挙権年齢が20歳以上から18歳以上へと引き下げられた。
  

  
2015年7月 野田ゆたか自選俳句

女王花の命短き香を惜む
一本の箸でことたる一夜酒
夕焼けて機影は点となりゆけり
城垣の家紋西日に浮き立てり
かにかくに話尽きせぬ帰省の娘
懐に触るる物なき浴衣かな
雷鳴の鬨の声とも古戦場
  
<この月の出来事>気象衛星ひまわり8号が、正式運用を開始した。
  

  
2015年8月 野田ゆたか自選俳句

稲妻の夜半の静寂を乱し馳す
底紅の彩の失せゆく日暮かな
限りある命惜しめと秋の蝉
手花火を囲む笑顔の子等映ゆる
大文字の果てて見てゐる如意ヶ嶽
早起きは一文の得説き涼し
盆棚へ孫の作なる駒と牛
  
<この月の出来事>京都、梅小路蒸気機関車館がこの日限りで閉館。
  

  
2015年9月 野田ゆたか自選俳句

収穫を前に仇なし暴れ川
恙なく沖に入る日や厄日過ぐ
夜業の灯額に篆刻孜々と彫る
被災地の夜長の豪雨偲びをり
喜寿といふいざよふ月に似たる日々
昨夜雨に萩のこぼれの一と処
地蔵坊寝まり露けき灯を零す
  
<この月の出来事>関東地方・東北地方で集中豪雨が発生
  

  
2015年10月 野田ゆたか自選俳句

荒び来し風のなすまま破芭蕉
煌々と梢にかかる後の月
色褪せず木々に絡まり烏瓜
鳥渡る越路の空の晴れわたる
越し方の喜寿を祝ひて登高す
田仕舞の煙たなびく秋の暮
朗報のつづくノーベル賞の秋
  
<この月の出来事>江崎グリコとグリコ乳業が経営統合。存続法人は江崎グリコ。
  

  
2015年11月 野田ゆたか自選俳句

冬雨の蕭条と降る二月堂
絶ゆ間なく紅葉且散る銀沙灘
甘南備に一夜普請の落葉道
さし曇り湖より時雨くる御堂
冬の朝ビル街の風頬を刺す
呼止むる言葉巧みに熊手る
落葉作務去りたる後も降りつづく
  
<この月の出来事>三菱航空機開発のジェット旅客機MRJが初飛行。
  

  
2015年12月 野田ゆたか自選俳句

枯菊の焚く香拡げる日和かな
御仏の慈悲の失せ褪せ蓮枯るる
返信のメール打ち了へ日短
涸川の風の遊べる沈下橋
冬帝の膝元抜けしハワイ便
月並の句ばかり記す日記果つ
越し方を顧み晦日蕎麦啜る
  
<この月の出来事>金星探査機「あかつき」が金星の周回軌道に投入される。