2007年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2007年1月 野田ゆたか自選俳句

嫁が君一つ家に住み幾久し
福笹に掛る重さを持帰る
空札の声ほのぼのと歌がるた
冬菫嬉しき言葉秘めきれず
箱根路の緞帳あがる二日かな
寒の水満たして茶屋の豆腐桶
神苑に砂利踏む音や春隣
  
<この月の出来事>第38回箱根駅伝で順天堂大学が総合優勝
  

  
2007年2月 野田ゆたか自選俳句

春浅し庭の名草のありやうも
タクシーの客待二台春浅し
若き梅薫り競ひて兵舎跡
遠目にも梅林の色整ひし
鳥獣の心にも触れ涅槃絵図
どの道を行くも雪解の永平寺
潮見女を立てて岩場の海苔掻女
  
<この月の出来事>第1回東京マラソン大会開催。
  

  
2007年3月 野田ゆたか自選俳句

佇めばそこが春野よ奈良宮址
校正を終へし昼餉の目刺焼く
治聾酒は禁酒の外とすることに
春水の入込む湖の碧さかな
虎杖の折られし跡の新しき
準備なほ抜けていさうに大試験
ビル街の寸土に咲きて一夜草
  
<この月の出来事>全国展開のポケットベルサービスが終了。
  

  
2007年4月 野田ゆたか自選俳句

どこまでも逃水つづく湖岸道
夜べよりの雨存分に大でまり
春光の角打延べて板金工
椅子点前受くるも花に浮れつつ
のどけしや湖岸より発つ仏道
春昼や緩みしままの眼鏡ネジ
軽々と提げて花見の酒二本
  
<この月の出来事>全国の小学6年生・中学3年生で全国学力テストを実施。
  

  
2007年5月 野田ゆたか自選俳句

生駒山空揺るぎなき五月鯉
病床の母を語りて薬の日
定年の名残りぬ余花の吹雪くとき
鉄線花神父は愛を据ゑられし
薮騒ぐ茶筅の里の若葉風
母の日の検温常とことならず
活花の牡丹一ひらづつ零し
  
<この月の出来事>憲法改正手続に関する法律(国民投票法)公布。
  

  
2007年6月 野田ゆたか自選俳句

梅天に鐘ひびかせて二月堂
旋盤の鉄くず匂ふ五月闇
鮎釣の簡単さうに見えてをり
神の田は昔ながらに牛が掻く
百足虫追ふふたりの声の重りぬ
さんご樹の咲きて泉州つゆ晴間
薫風や水掛不動苔むして
  
<この月の出来事>米国で桑田真澄投手がメジャー初登板。
  

  
2007年7月 野田ゆたか自選俳句

運ばれ来瀬音伝に川床料理
打水に生れし風の膨れゆく
山頭火庵し伊予の蝉時雨
月見草咲初め誰も居ない湖
閻魔堂閉ざされしまま半夏生
本堂の暗さ涼しき大庇
夏終る湖の裸婦像そのままに
  
<この月の出来事>豊岡市で野生のコウノトリが46年ぶりに巣立つ。

2007年8月 野田ゆたか自選俳句

いま流星を見しと言ふ見ぬと言ふ
桐一葉絶ゆこと久し機の音
原爆忌浜辺に白くうつせ貝
生字引落丁もあり生身魂
み仏の朱唇鮮やか地蔵盆
風匂ふ夜道となりぬ稲の花
すり足で秋が来てゐる街の灯に
    
<この月の出来事>関西国際空港の第二滑走路使用開始しに伴い完全24時間空港に。

2007年9月 野田ゆたか自選俳句

八千草を咲かせて奈良の内裏跡
コスモスの揺るゝや風の意のまゝに
秋彼岸黄泉遠からず近からず
祭神は攘夷の公家よ萩の宮
台風の吠ゆる鉄鎖の一夜かな
昼の顔知るよしもなしビルの月
御仏は常に聞き役秋ともし
  
<この月の出来事>2003年から行われてきた平等院の平成大修理事業が終了。
  

  
2007年10月 野田ゆたか自選俳句

夜べの風色ぬき去りて天高し
屋敷門構へて色を変へぬ松
伎芸天出でませ里は秋祭
ポケットの硬貨が活きて愛の羽根
臥龍廊渡り登高せしことに
柿の実のまるい赤さを篭に盛る
古城へは手の届く距離十三夜
  
<この月の出来事>一般向けの緊急地震速報の提供が始まる。
  

  
2007年11月 野田ゆたか自選俳句

冬日和影絵の狐こんと鳴く
大綿の空にまぎるる光かな
幾たびも鷹を放ちて城小春
こだはりの産地のワイン文化の日
芭蕉忌の近づく頃の時雨かな
しぐれ雲より冷えゆきぬ京都駅
凩を見せて波立つ余呉湖かな
  
<この月の出来事>初めて『ミシュランガイド東京2008』が発売される。
  

  
2007年12月 野田ゆたか自選俳句

観覧車とめて生駒の山眠る
枯木なほ風に吹かれて落すもの
道後への列車しゅしゅぽぽ漱石忌
体重を乗せて冬至の南瓜切る
年用意世事の条理にとらはれず
賀状書き済ませて喪中葉書来る
無想より無我の境地へ除夜の鐘
  
<この月の出来事>改正政治資金規制法成立、1円以上の領収書の公開が義務に。