2006年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2006年1月 野田ゆたか自選俳句

無防備に正月の顔写さるる
新調の筆の太さを書初に
ラガーらの声押し戻し生駒山
横丁に霰弾めり法善寺
寒餅を搗上げ空の美しき
侘助やかの日となんぬ崩御報
風花や京は通りと筋の町
  
<この月の出来事>NASAが史上初の冥王星無人探査機を打ち上げる。
  

  
2006年2月 野田ゆたか自選俳句

球団の猛虎が春を掻乱す
止めどなき雪解雫の永平寺
初午の日より陽気の小走に
一言で片づけてゐる梅の色
残雪の若狭守継ぐ水送り
梅の香が人呼寄せて一の宮
風紋は極楽の絵図涅槃西風
  
<この月の出来事>神戸空港開港。世界人口が65億人に達する。

2006年3月 野田ゆたか自選俳句

春日野は世界遺産の木の芽風
豪華船デッキに黄砂乗せ来る
春疾風観光桟橋閉ざされて
一駅を歩くぺんぺん草の土手
開放ち小厨子に通す彼岸風
父を知る人と相席彼岸寺
流氷の落暉じゅうじゅう空耳に
  
<この月の出来事>神戸ポートピアランドが閉園。
  

  
2006年4月 野田ゆたか自選俳句

花の道行けば御陵の衛士屯所
麗かや古代座法の小町像
菜の花を千畳に敷き琵琶湖畔
雨上り葉柳重き千亀利城
春眠は家族の皆に行きわたり
音軽るしテニスラリーに散る桜
ゆく春を容認しをり邪心なく
  
<この月の出来事>阪神の金本知憲が904試合連続イニング出場で世界新記録を達成。
  

  
2006年5月 野田ゆたか自選俳句

魚屋のさばく包丁夏に入る
イソップを語り憲法記念の日
大将は齢一歳武具飾る
捩花や小径旧家に突当る
新緑にまみれて軽き旅鞄
版木彫る刃先に触るる五月光
卯の花や幾たび人に救はれし
  
<この月の出来事>交通博物館が閉館。
  

  
2006年6月 野田ゆたか自選俳句

郭公や分水嶺まで後すこし
梅雨入や地震傷みの窓軋む
錦城の夏木が星を描き初む
また蛇の出さうな道に迷ひをり
まだ箸をつけず釣果の鮎談義
京都では歩くつもりの夏帽子
この鰹土佐の沖より揚がりきし
  
<この月の出来事>衆議院に選択的夫婦別姓制度への改正案を提出。
  

  
2006年7月 野田ゆたか自選俳句

立錐の余地無き岸べ天満祭
視野高く置きて寸又の星涼し
夏料理触れれば動く海老の髭
円虹や底が樹海と思はれず
一泊の霞ヶ関の朝ぐもり
わが町の暁晴るる半夏生
果つ夏の一塊解けて澄める湖
  
<この月の出来事>北朝鮮がミサイルの飛翔実験。
  

  
2006年8月 野田ゆたか自選俳句

七夕の近づく夜の澄む気配
部屋の灯を点せば秋の影生れ
稚児仏は吾が姉なりし墓洗ふ
流星や惑星の名の一つ消ゆ
鳥居形消えてお盆の果てにけり
強情でそして淋しき秋の蝉
神将のまなこ鋭し残暑なほ
    
<この月の出来事>奈良ドリームランドが閉園。
  

  
2006年9月 野田ゆたか自選俳句

狛犬の阿吽葉月の空澄みて
雨晴れて萩の零れのひと処
彼岸花紅を連ねて古街道
水澄むや京都に古き発電所
歩き来よこの名月の失せぬ間に
行厨を千草の香り残る手に
乱れ咲く叢のもっとも萩らしく
  
<この月の出来事>日本の太陽観測衛星「ひので」を打ち上げ。
  

  
2006年10月 野田ゆたか自選俳句

桐の実の錆深めゆく風の音
戸車の軋みぬ雨の十三夜
火祭や炎切取るカメラの目
菊の酒準備の白丁袖まくり
釣餌にと捕られし蝗生かさるる
少将の悲哀伝ふる榧は実に
家康公祀る御堂の紅葉濃し
  
<この月の出来事>障害者自立支援法施行。
  

  
2006年11月 野田ゆたか自選俳句

この薫り花柊と知れるまで
大根の白そのままに香の物
三山の力抜くとき初しぐれ
銀閣や木の葉浮かべて銀沙灘
終焉の地に芭蕉忌の心置く
視線無き兜を展べて冬の城
懸大根若草山に晴れる雲
  
<この月の出来事>北海道佐呂間町で竜巻が発生。
  

  
2006年12月 野田ゆたか自選俳句

冬銀河学研都市の闇深し
霜夜更け佳境に入りぬ大宇宙
冥王星落ちて冬田の真暗がり
年暮れて絶えず人立つ法善寺
一村を闇に沈めて冬銀河
浄土窟鉄鎖で閉して山眠る
この句会済めばいよいよ数へ日に
  
<この月の出来事>改正教育基本法を公布。