2005年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2005年1月 野田ゆたか自選俳句

旅いくつこなして今日の年新た
初御空上へ上へと若き杉
独楽回るとき古傷は眼につかず
登り来て寒九の水を寺に汲む
一村の星を集めて豆腐凍む
水仙を剪れば香りぬ花の息
滝氷柱太りて妥協する気なし
  
<この月の出来事>軽自動車のナンバープレートの分類番号3桁化・希望番号制を実施(自家用のみ)。
  

  
2005年2月 野田ゆたか自選俳句

ぬた場へと通ふ道あり鹿の春
虚しさを少しは残し義仲忌
下萌の支ふる塔の五重かな
公魚は間髪入れず天ぷらに
春動くねじ切工場の始動音
二軒目の酒は辛口猫の恋
懸案を抱へ二月の過ぎ易く
  
<この月の出来事>自衛隊第五次イラク派遣。

 

  
2005年3月 野田ゆたか自選俳句

お言葉を偲べば陵の風ぬくし
よき目覚窓に生駒の山笑ふ
黄水仙過ぎたる日々の美しき
強東風の湖に鯰が棲むと言ふ
ウイルスの究明さなか鳥帰る
大石忌午後の太陽動かざる
病棟を辞せば枯木の芽が青む
  
<この月の出来事>島根県議会が、2月22日を「竹島の日」とする条例案を可決。
  

  
2005年4月 野田ゆたか自選俳句

知恵貰帰りは誰も振り向かず
美吉野の花の仔細をメールにて
明日香路のルートここより風光る
蝌蚪の池朝日きらきら動き初む
囀の前の静寂に朝茶の香
行春や勢至菩薩は出の構
春行くや時の流れの緩やかに
  
<この月の出来事>福岡市で震度5強の震災、被害甚大。
  

  
2005年5月 野田ゆたか自選俳句

睡魔来る憲法記念の日の講話
白波に夢広がりて夏来る
湖いつか夏が来てをり浮御堂
桐の花太閤ゆかりの出湯涸れて
乗車券さっと抜き取り夏の駅
能堂の裏に咲き群れ踊子草
葉桜も醍醐伽藍の一つかな
  
<この月の出来事>高額納税者発表が本年限りとなる。
  

  
2005年6月 野田ゆたか自選俳句

苺喰み舌が紅いと聞く子かな
停車ごと薫風を乗せ湖西線
解散に蝮の注意こまごまと
夜の絵巻果てて鎮もる鵜飼川
五月雨の闇を深めし空傾斜
葉の色に溶込んでゐて雨蛙
万緑や山の斜面に大の文字
  
<この月の出来事>野茂英雄が日米通算200勝を達成。
  

  
2005年7月 野田ゆたか自選俳句

この山の水が自慢と心太
寝入ばな月下美人に起こされし
虹たちて皆の枕を押入に
晴天の音なき世界凌霄花
己が影すらりと庭に朝涼し
朱が少し二校涼しく済ませけり
空蝉や羽化の力みを残す爪
  
<この月の出来事>北海道の知床半島(知床)がユネスコの世界遺産に登録される。
  

  
2005年8月 野田ゆたか自選俳句

新涼やくるりと向きの変わる椅子
人の手に触るることより新豆腐
星合の下に空けおく席ありて
づかと来て仏間へとほる盆の僧
残照を水平に曳き島の秋
影法師すらりと伸びて涼新た
刀豆や反りもほどよき老夫婦
    
<この月の出来事>首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス全線開業。
  

  
2005年9月 野田ゆたか自選俳句

刈らず措く秋七草の名を持てば
運針を止めて夜なべの小賄ひ
鴨川の雨蕭条として太祗の忌
お喋りはこれでお終ひ寝待月
女郎花羽音を寄せて一の宮
小粉団や雀水浴ぶ潦
名水を京に伝へて萩の宮
  
<この月の出来事>衆議院議員選挙。郵政民営化を訴えた自由民主党が記録的大勝。
  

  
2005年10月 野田ゆたか自選俳句

蜜柑剥く海の蒼さを沖に見て
雁渡る海の凪ぐ日も荒るる日も
大歩危の木々は斜めにもみぢして
酒米の研がれて細る秋日かな
手に掬ぶ水の冷やこさ小鳥来る
福菊の尺に満たざる背丈かな
柿を剥く陶土汚れの大きな手
  
<この月の出来事>日本道路公団・本州四国連絡橋公団・首都高速道路公団・阪神高速道路公団の四公団の民営化。
  

  
2005年11月 野田ゆたか自選俳句

神の旅夜発なりしか夜べの風
境内に砂利踏む音や冬日和
神宿る島に生活の竹瓮漁
殿の笠は目深に鉢叩
受章者の恙を問ひぬ文化の日
時雨来て鳴らずの鐘の堂寂びぬ
国技館閉ざされしまま神無月
  
<この月の出来事>小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワに着地し、岩石を採取。
  

  
2005年12月 野田ゆたか自選俳句

無事に孫生まれ霜夜に仰ぐ星
化けている顔して狸捕られけり
枯萩の尤もらしく芭蕉句碑
城ぬちに枯木の影を貼る巨石
風ぐせを直す華材の枯尾花
浦に居る私も過客冬の月
煩悩を少しは残し除夜の鐘
  
<この月の出来事>AKB48が東京・秋葉原で第1回講演を行う。