2003年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
2003年1月 野田ゆたか自選俳句

亡父あて賀状三通仏壇に
正月や集る子らを吾迎ふ
妻と来て福笹二つ持たさるる
春寒し牛舎に気配なきことも
快方へ向かふリハビリ七日粥
叡山の颪が磨く寒椿
冬名残る紡ぎし糸を撚るように
  
<この月の出来事>第65代横綱貴乃花光司が引退。
  

  
2003年2月 野田ゆたか自選俳句

下萌や茶房に朝の光満つ
浅き春崩さぬやうに席に着く
末黒なる若草山の息吹かな
春の湖釣果を問へば坊主てふ
仄かなる香をもて誘ふ野梅かな
針供養釣針も又ねんごろに
朝市の焼魚匂ふ雪解かな
  
<この月の出来事>飛鳥時代の迎賓館跡とされる奈良県明日香村の石神遺跡から、元嘉暦に基づく具注暦を記した木簡が発見される。
  

  
2003年3月 野田ゆたか自選俳句

きりきりと比良八荒の波尖る
花かりんふる里古りし県人会
出づ地虫すぐには行方定まらす
霊園に一柱加え蔦芽吹く
やぶ医者の蜆を食へと言ふ処方
経木屋の文字は流暢彼岸寺
霾や兵士の塚は風ばかり
  
<この月の出来事>日本初の情報収集衛星「光学1号機」「レーダ1号機」を打上げ。
  

  
2003年4月 野田ゆたか自選俳句

木苺の花の白さや釣疲れ
春風の飄飄としていづみ川
振あげし拳の行方四月馬鹿
鳥瞰の花の雲海濃かりけり
藤を見に行くてふ夫は数珠を手に
薬にも頼りて花の吉野まで
篝火の点りて開く花ごころ
  
<この月の出来事>郵政事業庁が日本郵政公社に。
  

  
2003年5月 野田ゆたか自選俳句

労働歌職にある日の遠のきぬ
甘党と知れて新茶を注がれけり
借景の山の動くと言ふみどり
人力に頼る発掘花は葉に
注ぎ分けし雫一滴古茶尽くる
この新樹我を鼓舞する何かある
彫上げて木屑の匂ふ麦の秋
  
<この月の出来事>宇宙科学研究所が工学実験探査機「はやぶさ」 (MUSES-C) を打ち上げ。
  

  
2003年6月 野田ゆたか自選俳句

木津川の木の津は昔芦茂る
蛾のむくろ取消ならぬ昨夜の言
古戦場一歩もひかぬ樟夏木
枇杷の実を父の墓前に置き戻る
栗の花匂えば近き父の墓
老鴬の息整ふる間のありし
案の定バス停よりの暑さかな
  
<この月の出来事>NASAの火星探査機「スピリット」が打ち上げ。
  

  
2003年7月 野田ゆたか自選俳句

生ビール挨拶ぬきで始りぬ
油照午後の太陽動かざる
星涼し溺者救助に寄与せし日
会話ふと途絶へて昼寝上手かな
一回戦勝ちし監督汗拭ふ
花はちす生駒の山に晴るる雲
切札を使わずじまい晩夏光
  
<この月の出来事>8日/阪神タイガース セ・リーグ史上最速のマジックナンバー49が点灯。
  

  
2003年8月 野田ゆたか自選俳句

星月夜空の大川淀みなく
もつれ糸ほぐすも二人星今宵
議事堂に一喝くれて秋の雷
迎火やいまも童のままの姉
華頭窓閉ざされ盆のお釈迦さま
袋菓子すぐに開ける子地蔵盆
機音の絶へて久しく桐一葉
    
<この月の出来事>国会議事堂屋根中央部に落雷、屋根小破。
  

  
2003年9月 野田ゆたか自選俳句

仲間らの顔引き締まる九月かな
草ひばり美空ひばりの碑の陰に
月澄みて逮夜の詠歌番外に
卒塔婆の小野小町も露けしく
露けしや小町作なる地蔵尊
蜻蛉なら素手で捕らふ子茜雲
梨子食へば果汁零るる旅日和
 
<この月の出来事>阪神タイガースが18年ぶりにリーグ優勝。
  

  
2003年10月 野田ゆたか自選俳句

新庁舎国旗なびける秋高し
大原女のお練りゆるりと時代祭
露寒と言ひて日和と言ひ直す
毒茸の方が目を引く山日和
松茸を山村出口にて鬻ぐ
谷紅葉見つつ下り来ローフ゜ウェイ
無人市柿無造作に積み上げて
  
<この月の出来事>東海道新幹線の東京駅 – 新横浜駅間に品川駅が開業。
  

  
2003年11月 野田ゆたか自選俳句

神渡荒れて白波尖る佐渡
遠山の俄に昏む今朝の冬
しばらくは御寺に憩ふ冬うらら
銀閣に木の葉漂ふ銀沙灘
城裏に抜道のあり花八手
妻とゆく札所巡りや石蕗の花
時雨来て栞りしままの俳書読む
  
<この月の出来事>日本で勲等の等級が廃止。
  

  
2003年12月 野田ゆたか自選俳句

登山口鉄鎖で閉じて山眠る
ふぐ鍋や毒舌に皆生き生きす
手袋の指を開閉意を決す
早出して旅の短日余しけり
着ぶくれて四股踏んでみる旅の宿
起こされし鰤早々と糶市に
ゆく年の去りなんとして闇新た
  
<この月の出来事>超電導リニアが山梨実験線で581km/hの鉄道世界最高速度を記録。