2002年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


 
2002年1月 野田ゆたか自選俳句

ワイン抜くカウントダウンの年新た
恪勤の日々懐かしみ初戎
初句座の前に錦城登り来し
どか雪を話題にもして問診医
園丁の遊べり木戸に雪うさぎ
冴ゆる夜や牛舎に気配なきことも
冬の薔薇挿して誕生祝ふ花
  
<この月の出来事>成田空港が大雪で断続的に滑走路閉鎖。
  

  
2002年2月 野田ゆたか自選俳句

薄氷や底に魚影の動く朝
装置解き父春暁の黄泉路へと
蛸石と呼ぶ石のあり春の城
算木積勾配美しき春の城
旅終へて春寒を解く家居かな
蛸地蔵とは異な名なり春の町
名刹の流れに沿ひし猫柳
  
<この月の出来事>小泉純一郎首相が田中眞紀子外相を更迭。

  

  
2002年3月 野田ゆたか自選俳句

いつ地虫出でしや列のできる店
鯱ほこに大陸よりの黄沙かな
剪定や思考しばしの空鋏
なほ続く進路指導や卒業子
潮風に落されさうに咲く椿
彼の岸へゆき着く頃の芽立ちかな
作者の名忘れし塔の霞みけり
  
<この月の出来事>欧州宇宙機関 (ESA) の地球観測衛星「Envisat」が打ち上げられる。
  

  
2002年4月 野田ゆたか自選俳句

春灯や四十九日の世が過ぐる
さつきまで蝶が来てゐた雨の庭
麗かや銀明水に来る雀
チューリップ結んで開いて幼の手
旬日と言ひ得て花の通勤路
支線より本線に継ぐ花曇
旬なれば山葵の薬味恐るべし
  
<この月の出来事>小・中学校完全週5日制のゆとり教育スタート。
  

  
2002年5月 野田ゆたか自選俳句

茄子植ゑて母の余生と在る余生
花ぎぼし風を大きくしてをりし
袋掛一と日で済ます総出かな
幅寄せに卯の花匂ひ来る車窓
摩耶山の光となりし若葉かな
地の自転きのうの花が葉桜に
影までも明るく泳ぎ五月鯉
  
<この月の出来事>経済団体連合会と日本経営者団体連盟が統合され、日本経済団体連合会(日本経団連)が発足。
  

  
2002年6月 野田ゆたか自選俳句

地下出でて風にとらるる夏帽子
雨上り町の暑さを裏返す
老鴬や水が美味しい陶の里
食卓のサラダの紫蘇は朝日の香
昭和はや黴て出てきし住所録
止むとなき雨に紫陽花色濃にす
地獄より抜け出す蟻の九死かな
  
<この月の出来事>サッカー日本代表が、FIFAワールドカップで1-0でロシアに勝ち、ワールドカップ初勝利。
  

  
2002年7月 野田ゆたか自選俳句

虹立ちて雲脱ぐ峰を遙かにす
夕虹や長くなりたるものの影
大夕焼焦げんばかりに消防署
喫茶室暑気に負けたる人ばかり
異教徒も駆込むチャペル大夕立
炎天の入口なりし地下出口
写るときいつも後列日焼の娘
  
<この月の出来事>スティーヴ・フォセットが世界初の気球による単独世界一周飛行を達成。
  

  
2002年8月 野田ゆたか自選俳句

朝顔の咲きて狭庭の紅一点
旅終へて帰路の残暑が待つ駅舎
乗換への駅の地下道残暑なほ
盆の月仰げば星を寄せてをり
七夕の願い二行に余りけり
苧殻焚く火の高からず老夫婦
花火師の撤収急ぐ真暗がり
    
<この月の出来事>住民基本台帳ネットワークの運用開始。
  

  
2002年9月 野田ゆたか自選俳句

観覧車花野展げて上りゆく
アルバムに亡き父と逢ふ夜長かな
歌碑に見る隠者の住ひ竹の春
風がふと匂ふ草の香初月夜
パソコンを閉じて夜長の空仰ぐ
黄泉路へは一方通行曼珠沙華
残照の菜畑に残り鶏頭花
  
<この月の出来事>日本の小泉純一郎首相が訪朝。日朝首脳会談が行われ、北朝鮮の金正日総書記が日本人拉致を公式に認める。
  

  
2002年10月 野田ゆたか自選俳句

秋惜む術後の快気得し人と
散策の嵯峨野は吾に野菊晴
通勤の車窓の紅葉日々に濃く
新蕎麦や煙を上げて登窯
薬より効きさうにあり菊の酒
荒海も列を乱さず鳥渡る
秋の日を奧へみちびき如来さま
  
<この月の出来事>北朝鮮に拉致された日本人5人が帰国。
  

  
2002年11月 野田ゆたか自選俳句

冬晴に祝ふ創設十五年
碑の前に佇つも供養よ芭蕉の忌
冬立つや尖りて速き波頭
夕時雨駅よりの傘相合に
飛機雲に入りし空港片時雨
神の留守連理の杉の守る社
波立てて凩のみが渡る島
  
<この月の出来事>軽自動車の字光式ナンバーの払い出しが全国で始まる。
  

  
2002年12月 野田ゆたか自選俳句

槌音が背を貫ぬきて暮れ寒し
寝そびれて枕辺に聞く霜の声
歳晩や古木の枝が空を掃く
寛美の名のこす焼跡北風すさぶ
ゴーグルの跡くつきりと受診の娘
経台に座して媼の肩蒲団
極楽は春と言ふ僧息白し
  
<この月の出来事>有田鉄道線がこの日限りで全線廃止。