2000年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


2000年1月 野田ゆたか自選俳句

二千年ビルの聳ゆる初御空
孫どもの偉観を栄ず春著かな
人の世の温もりに生き七日粥
あの顔もこの顔も笑む初句会
讃岐富士見ゆる金毘羅初詣
休刊日忰みし手をポケットに
落つと言ふ言葉慎み松の内
  
<この月の出来事>祝日法において、初めてハッピーマンデー制度が適用された。
  

  
2000年2月 野田ゆたか自選俳句

梅の香を床にほどきて佳き日かな
大空の隅まで春や観覧車
蒟蒻に相すまぬこと針供養
涅槃図のねずみの後に我が影が
箒目の庭にこぼれて濃紅梅
源平の白のやさしく枝垂梅
湖風の飄々として義仲忌
  
<この月の出来事>マイクロソフトがWindows2000を発売。

    
2000年3月 野田ゆたか自選俳句

風止んで徐々に春めく夕べかな
抜道の空地親しく青き踏む
受験子の結び直せる祈願絵馬
ひと区切つきたる昼餉目刺焼く
落椿水面に波紋拡げけり
グリーンへはザードショットで水温む
引鳥やガレージ内を塗替へる
  
<この月の出来事>北海道・有珠山が23年ぶりに噴火。
  

  
2000年4月 野田ゆたか自選俳句

谷風に研ぎ澄まされて藤の花穂
観桜や東大寺への道すがら
お辞儀して鹿通りけり花御堂
裏町の沈丁の道抜けられず
桜餅食みて出句の時刻かな
正体を隠しおほせぬ蝌蚪の足
春風を踏んでみたくてスキップす
  
<この月の出来事>京奈和自動車道の京奈道路が全線開通。
  

  
2000年5月 野田ゆたか自選俳句

朴の花かほり流せる風のむき
雨しずく緋に染りゆく薔薇の門
新緑の日の斑を供華に磨崖仏
大川の風飄々と夏めきぬ
推敲のふたたび三たび庭若葉
たかが句のされど俳句の花は葉に
妻が呼ぶケンは犬の名柏餅
  
<この月の出来事>海上保安庁への緊急電話番号118番がスタート。
  

  
2000年6月 野田ゆたか自選俳句

俳号を伏せる紫陽花剪られけり
父の日やネクタイ買ふと云はれても
鮎掛けて烏に始末見られをり
梅天やお寺は人の寄るところ
囲の蜘蛛に待てる孤独のありにけり
哲学の真理は一つ夏木立
さくらんぼいくつ食べても陽の甘味
  
<この月の出来事>ドイツが2030年代に原子力発電所を全廃すると発表。
  

  
2000年7月 野田ゆたか自選俳句

歯科医師の手を休ませて日雷
月涼し風にまつわる濯ぎ物
敬礼の機長涼しく搭乗す
鉾建ちて長刀京の雲を切る
漫才師使ふ扇子の香を異に
三人が揃へば句座に夏座敷
松山は俳句のメッカ蝉時雨
  
<この月の出来事>二千円札発行。42年ぶりの新額面紙幣。
  

  
2000年8月 野田ゆたか自選俳句

雲浮かべ池の新涼己づから
低くとも花を咲かせて白木槿
秋旱ページめくれば目が痒い
よろず屋に花火が並び海の町
朝顔や昭和の母は武蔵野へ
花笠の果てて眉月秋めきし
日程はあつてなき旅ねぶた見に
    
<この月の出来事>香淳皇后は、武蔵野東陵、昭和天皇と隣り合って葬られました。

  
2000年9月 野田ゆたか自選俳句

八千草の香の残る手に弁当を
鈴虫を放ちて日々の世話終る
枝豆のどんと盛られて開店日
秋彼岸黄泉近からず遠からず
墓石の風化の梵字薄の穂
間引菜を汁にしたしに夕餉かな
秋ともしミサの祈りの罪と罰
  
<この月の出来事>三宅島の火山活動の活発化により、全住民に島外への避難指示が発令。
  

  
2000年10月 野田ゆたか自選俳句

戻路の脚から暮るゝ秋日かな
歳月を一と夜に戻す温め酒
秋天が吸取る鉄骨遮断音
みのり田の旬日待てぬ風禍かな
一献を良薬として秋の声
好晴の秋を惜みて松花堂
観楓の余韻をつなぎ露天風呂
  
<この月の出来事>超党派野党、参議院に選択的夫婦別姓制度を求める民法改正案を提出。
  

  
2000年11月 野田ゆたか自選俳句

人絶えぬ水掛不動冬うらら
神無月漁船溜の風すさぶ
立冬の足音風となる家路
入洛の途中一点時雨けり
返り花庭の風情の裏返る
冬和ぎの航白々と隅田川
参道の木洩日踏みて小六月
  
<この月の出来事>日本でストーカー規制法施行。
  

  
2000年12月 野田ゆたか自選俳句

それぞれが高さを保ち枯芙蓉
何にでも便利な男煤払ふ
雉鍋や奉行は鷹に似し男
手袋の指を開閉万歩ゆく
浜風の強さを傾ぎ枯尾花
笹子啼く白虎池畔の小流れに
行年を栞り戦史の世紀閉づ
  
<この月の出来事>台風23号(Soulik)発生。最も発生の遅い台風。