1999年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


1999年1月 野田ゆたか自選俳句

還暦や賀状のうさぎ晴がまし
還暦は一瞬にして去年今年
職退きて小振りとなりぬ注連飾
句始の声晴れやかに披講人
七種を打てば打つほど緑の香
凍道にころびし事を言はでをく
四温晴杉の青さの影を濃く
  
<この月の出来事>奈良県明日香村で富本銭が発掘される。日本最古の貨幣か ?。
  

  
1999年2月 野田ゆたか自選俳句

速達や梅の便りと思ふ文
梅咲きて野路大いなる陽を賜ふ
眠くなり春の細胞分裂す
林泉の音を戻して春兆す
恙なき定年春を欲しいまま
落着かぬ余寒の旅でありしかな
秘境てふ峡の雪崩を聞く一夜
  
<この月の出来事>JR西日本の一部でJスルーカードの使用開始。

  

  
1999年3月 野田ゆたか自選俳句

一歩より応へる大地土筆摘む
還暦も職を退く日も蜆汁
定年や闘志再び木の芽晴
ものの芽や私も何か始めねば
隅田川見ゆる老舗の浅蜊飯
済ませたる所得申告春の風
日曜も休まず上り簗番屋
  
<この月の出来事>『だんご3兄弟』のCDが発売。爆発的なヒットに。
  

  
1999年4月 野田ゆたか自選俳句

いち早く居所を定めて初蝶々
朝寝夫起きしか窓を開ける音
散る花を透けて下弦の淡き月
春暁や早起きの癖まだ少し
瞑想に入りて囀失せ去りぬ
春の日が背に馴染み行く日和かな
春月をあげて開幕巨神戦
  
<この月の出来事>高校野球大会で、沖縄尚学高等学校が沖縄県勢として初優勝。
  

  
1999年5月 野田ゆたか自選俳句

定年の腰軽うして夏来る
一心を空に放ちて桐の花
少しづつ馴れきし夜目に新樹の香
祖母二人嬰をあやして初節句
どの枝も輝く葉並子供の日
光背に重ねし夕日練供養
酒豪とは昔のことよ柏餅
  
<この月の出来事>西村博之が巨大掲示板群「2ちゃんねる」を開設。
  

  
1999年6月 野田ゆたか自選俳句

鮎釣師釣果の場所を秘めきれず
蜘蛛の囲を三重に巡らし休業中
子鴉に覗かれている絵の具箱
青芦や湖ひたひたと夜のとばり
でで虫のアリバイなりし銀の筋
中華街昼を灯して五月闇
濡れて着く都大路の梅雨深し
  
<この月の出来事>男女共同参画社会基本法公布・施行。
  

  
1999年7月 野田ゆたか自選俳句

天守閣戦なき世の汗涼し
日傘閉じ帽子を脱ぎて初対面
来阪はいつもこのころ鱧料理
降り来るも止むも夕立いさぎよし
虹立ちて一会を惜む別れかな
露涼し何時しか揃ふ二人の歩
怪獣を脚蹴にたり昼寝の子
  
<この月の出来事>NTTが持株会社化、西日本、東日本、コミュニケーションズに分割。
  

  
1999年8月 野田ゆたか自選俳句

東京はいつか疎遠に遠花火
大文字や寄進の薪はあのあたり
還暦は一瞬のこと流れ星
槙秋芽あさき緑を摘むことに
玄関に濡れ傘五本盆供雨
みそ萩の風鎮もりて暮色濃し
流灯の悲しみ闇に残しけり
    
<この月の出来事>日本で国旗国歌法が成立。
  

  
1999年9月 野田ゆたか自選俳句

夕月は満ちつつ空を高めつつ
秋水を寄せて鴨川始点の地
揮毫句の群れる蜻蛉がわが町に
雁がねの棹突き刺さる琵琶湖かな
月影を捉へ始めし鰯雲
遥かなる月に恋して池の鯉
旅ごころ闇に紛れぬ風の盆
  
<この月の出来事>福岡ダイエーホークス初のリーグ優勝。
  

  
1999年10月 野田ゆたか自選俳句

海道を渡り来ここも蜜柑島
錦城のでんと聳えて菊日和
手に届くまでの柘榴のたわみかな
菊の香を誉めて嘱託退庁す
坊ちやんの勤めし学舎小鳥来る
バス旅の今日は明るく秋の空
長持ちのしそうな菊を選び供花
  
<この月の出来事>上信越自動車道が全線開通。
  

  
1999年11月 野田ゆたか自選俳句

生駒山襞を広げて冬日和
風害の跡を癒して返り花
城山の木々鎮もりて峨々と冬
凩を見せて白波立てる湖
雨吸ふて草木は冬の息づかひ
雨晴れて始まる落葉しぐれかな
建具師の太きふしくれ花八手
  
<この月の出来事>日本で外国産カブトムシ、クワガタムシ44種の輸入が解禁される。
  

  
1999年12月 野田ゆたか自選俳句

魚捌く早さを売りに年の市
用なくて師走の街を観てゐたり
吟行の予定端折る寒さかな
読経中なれば嚔をこらへけり
色のなき風のざわめき枯木立
鴛の水尾二本広がり又狭む
濠の鴨何時もどれかが和を乱す
  
<この月の出来事>年金改正法成立。