1998年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


1998年1月 野田ゆたか自選俳句

千余段上り来恵方詣かな
筆馴し先づは吾が名を箸紙に
初鏡眉に一本長白毛
スクラムのラガーの背より湯気上がる
待春の心同じゆう仁王さま
青天へ噴く岳ひとつ冬終る
凍てゆるむ再建重機天を突く
  
<この月の出来事>太陽党、国民の声、フロム・ファイブの3党が合流して民政党に改称。
  

  
1998年2月 野田ゆたか自選俳句

社員録いづれ吾の名の消ゆる春
紅白は祝ぎの日の色梅の花
事務室の梅香が仄とチャイム鳴る
春浅し吹抜く風も木も草も
枕辺の闇をくすぐり春の猫
筆を買ふ春一番の明けの日に
白魚の一合ほどの漁果かな
  
<この月の出来事>冬季オリンピック、長野大会開催。
  

  
1998年3月 野田ゆたか自選俳句

この町は最後の任地水温む
啓蟄の庁舎に残る夕日かな
幾万の木の芽育てて神の杜
庭の灯を消して春風渡る闇
定年の真白き未来桜植う
春塵を払ひて職を退く日かな
風ぬくし定年の日の夜なりけり
  
<この月の出来事>長野パラリンピックが開幕。
  

  
1998年4月 野田ゆたか自選俳句

錦城にひそと残花の一樹かな
今心軽し緑の立つ湖畔
改装の球場春の風とほる
八十八夜畑のものの勢いづく
夜桜の人入替はり立替はり
天に向けぶらんこの子の弾み声
春光を纏ひ黄泉路を逝かれけり
  
<この月の出来事>プロレスラーのアントニオ猪木が引退。
  

  
1998年5月 野田ゆたか自選俳句

大ばこの花にいよいよブルドーザー
葉桜が闇を深めぬ草枕
山頂へレール真つ直ぐ夏の駅
下草を添えれば薔薇も供花らしく
来る夏の正面に佇ち修行僧
雨上るとき樟の天辺若葉光
叡山の水存分に山ぼうし
  
<この月の出来事>若乃花が第66代横綱に昇進。
  

  
1998年6月 野田ゆたか自選俳句

白南風やみどり児ふたり寝落ちたり
昨夜の雨胡瓜の花に晴るるかな
照る青葉あしたの京は晴れといふ
修復の塔の高さにほととぎす
空梅雨や脚を顕はに浮御堂
花菖蒲活けて湯宿の女将かな
楠の木の茂りて金蔵隠しけり
  
<この月の出来事>総理府の外局として金融監督庁を設置。
  

  
1998年7月 野田ゆたか自選俳句

ボスの忌やヨット連ねて相模湾
伯備線椅子に涼しく山を越ゆ
庭園を巡り来られし汗と見る
釣師ゐて調理師がゐて天幕村
掛冠の門を遥かに冷奴
雷の一喝ありて曼荼羅供
定年といふ涼しさと朝風と
  
<この月の出来事>マイクロソフトが「Windows 98 日本語版」を発売。
  

  
1998年8月 野田ゆたか自選俳句

旅なれば残る暑さを吾がものに
灼石の水繰返し墓洗ふ
蜩に急かされてゐる夕支度
反戦者あまた居て秋立ちにけり
七夕やみちのくの夜煌めきて
めはじきや今はピアスの似合ふ娘に
終戦のその後に触れず原爆忌
  
<この月の出来事>原宿の歩行者天国が廃止される。
  

  
1998年9月 野田ゆたか自選俳句

パソコンに歳時記開く夜長かな
薬師仏右手傾ぐは秋思とも
芋の葉の雨ころころと帰り道
風とほる形に枝垂れて萩の道
刈伏せし秋草匂ふ陽の残滓
露けしやクルスの屋根に茜雲
影法師月の客なる芭蕉像
  
<この月の出来事>ドメイン名やIPアドレスを全世界的に調整・管理するICANNが設立。
  

  
1998年10月 野田ゆたか自選俳句

朱欒にはおのれ丸める空のあり
秋晴の塔近づけて降車駅
墳丘を守れる桜はもみぢして
菊の香を間口に拡げ銘菓の舗
飛火野の闇を深めて鹿の声
散策のわれに嵯峨野の野菊晴
秋声や雑木と心同じゆうす
  
<この月の出来事>プロ野球・横浜ベイスターズが38年ぶりにセ・リーグ優勝。
  

  
1998年11月 野田ゆたか自選俳句

小春日や影絵の狐こんと鳴く
俳句碑に落葉積む音踏める音
廃道の落葉に埋もれ石仏
冬暁の茜ぼかしに浅間山
猫じやらし冬もじやらして千曲川
冬紅葉お百度踏むは誰がために
城裏に落葉敷き詰め自刃の地
  
<この月の出来事>セガが家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」を発売。
  

  
1998年12月 野田ゆたか自選俳句

ふぐ鍋の奉行生き生き激飛ばす
初雪を話題にもして今日の句座
石切の肌そのままに山眠る
帰路のこと口にせし妻重ね著す
対局にはまり込みたる懐手
登山道鉄鎖で閉じて山眠る
戻り路は息白き夜となりにけり
  
<この月の出来事>特定非営利活動促進法(NPO法)施行。