1997年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


1997年1月 野田ゆたか自選俳句

書初に十七音の戻り来し
初髪の妻に育児の日々ありて
去年今年ナースセンター休みなく
侘助や雨の降る夜は清貧に
雪折や夜べの言葉のなぞ深む
林泉の流れに寒の蜆かな
円陣のラガーの背より湯気上がる
 
<この月の出来事>米国で初の女性国務長官マデレーン・コルベル・オルブライトさんが就任。
 

 
1997年2月 野田ゆたか自選俳句

鶯や座禅組むのに少し邪魔
植木師の鋏急げる春時雨
梅の香やよい話しとは何ならむ
広報紙強くインクの匂ふ春
膨らんでゆく春の大気と計画と
下萌や勢至菩薩は出の構
野火走る陸には風のあるらしく
 
<この月の出来事>大阪ドームが完成。
 

 
1997年3月 野田ゆたか自選俳句

土地言葉馴れて河内や初燕
定年の友に送りし花の種
鳥雲に電子メールを彼の国へ
潮風に磨かれし色玉椿
風止んで不意に春めく夕べかな
鮎のぼり来て暴れ川親しかり
雛飾地震を越えて来し官女
 
<この月の出来事>大阪・JR東西線開業。三井三池炭鉱が閉山。
 

 
1997年4月 野田ゆたか自選俳句

生業は蛙捕獲と聞かされる
味噌汁を温め直しぬ花の冷え
真四角が鶴に折られて春の宵
夜桜へほどよき時間残業す
帰路変へて入りし旧道花いちご
検眼のあと眩しきに小米花
奔放な男に生れ花に酔ふ
 
<この月の出来事>化学兵器禁止条約が発効。
 

 
1997年5月 野田ゆたか自選俳句

雨音のリズム明るき柿若葉
背をただし筍飯をつぐ媼
曽孫抱く刀自の笑顔も子供の日
終の香を放ち崩れてゆく牡丹
雛罌粟の庭に据置く椅子二つ
川原が好きな子がゐて夏来る
宿題にすぐに厭きる子夏つばめ
 
<この月の出来事>アイヌ新法が公布。
 

 
1997年6月 野田ゆたか自選俳句

旅仕度できて夏風邪治まらず
塔仰ぐ視野の高さに時鳥
釣暦鮎解禁で始りぬ
雨晴れて一気に草を引尽す
花菖蒲観て来て気持よき疲れ
船頭はパントマイムや青嵐
鯒を喰むために横丁曲がりけり
 
<この月の出来事>イチロー選手が「209打席連続無三振」の記録を樹立。
 

 
1997年7月 野田ゆたか自選俳句

登山小屋イヤホンに聞く巨神戦
城ぬちの救護所跡や草いきれ
折返す水上バスの灯も涼し
庭の木に水著干されて海の家
うねりては鉄路を越ゆる青田風
居るやうに見ゆる不在の夜水番
友の忌や二十歳の遺児と白百合と
 
<この月の出来事>米国の火星探査機「マーズ・パスファインダー」が火星に着陸。
 

 
1997年8月 野田ゆたか自選俳句

洗ひたる硯が乾く間の喫茶
銀漢の水掬はんとひしやく星
朝顔の登り詰めては横這ひに
存分に働き影の秋めきし
割込みて七夕竹に吊る拙句
精一杯生きて清らに盆の月
午後の陽を背に草市の地割かな
 
<この月の出来事>大阪市営地下鉄長堀鶴見緑地線が全線開業
 

 
1997年9月 野田ゆたか自選俳句

草野球とんぼが塁に来て留る
三日月を傾がせ荒るる日本海
供花として足りぬ何かの女郎花
混沌と闇深めゆく雨月かな
露けき灯出航船が点となる
自分史に波の音あり鰯雲
半身づつ和洋に分けて鮭料理
 
<この月の出来事>ロックバンド「X JAPAN」が解散表明。
 

 
1997年10月 野田ゆたか自選俳句

疎水路に沿ひて紅葉の濃かりけり
桜木の紅葉枝垂るる勅使門
山装ふあまたの錦重ね着て
秋ゆくと言へばそれらしき城
頭垂る支援物資となる稲も
囲はれの麒麟が秋の空に喰む
汚れ手に蜜柑を貰ふ中休み
 
<この月の出来事>新国立劇場が開場。
 

 
1997年11月 野田ゆたか自選俳句

寒晴や金の鳳凰御所に向く
真冬日の北に向きたる離陸の機
酉の市ますます父に似てくるか
冬うらら仄あたたかく聖火行く
落葉踏む空底抜けの並木道
初冬の湖は真碧に竹生島
風除を打来る風の色白し
 
<この月の出来事>北陸自動車道が全線開通。

1997年12月 野田ゆたか自選俳句

紅系のネクタイ買ふて十二月
一村の闇を深めて牡丹鍋
テープ切る霙るる街を走り来て
売出の旗も師走を飾るもの
衣脱ぎてひたと山々眠るかな
白息を集めし現場緊張す
一年の成果しみじみ年の夜
 
<この月の出来事>東京湾アクアライン開通。