1995年1月 野田ゆたか自選俳句

巫女舞の鈴軽やかにお元日
書初は猪の気迫を筆太に
春着着る嬉しさ顔や手や足に
初夢を見てゐるらしき嬰の顔
受くまでは悴んでゐし胃検診
この先は忍者の里よ梅探る
水掛の不動に汲みて寒の水
<この月の出来事>17日午前5時46分 阪神・淡路大震災。

1995年2月 野田ゆたか自選俳句

梅を撮るレンズの先の枝揺れて
薄氷となりて鳥らの来る水辺
雪しろの音を生み初め神の滝
早春の心が先にゆく能登路
末黒野や無から始まる句の世界
ケイタイの声のこもれる春の風邪
下萌の出揃ひテープカットかな
<この月の出来事>野茂英雄の米大リーグ・ドジャース入団が決定。

1995年3月 野田ゆたか自選俳句

会釈せし人の名忘れかげろへり
峡の黙解きゆく木々の芽吹かな
受験子に今日の茶断ちを言はでをく
内裏雛后微かに笑み給ふ
釣行の準備こもごも水温む
土筆摘む改修川の長堤
雨が打つ近江平野の春田かな
<この月の出来事>アメリカでYahoo設立。

1995年4月 野田ゆたか自選俳句

観光の舟路つづけり芦若葉
春昼や受講の一人俯きて
野球部のシートノックに桜散る
厨子の供花白がちにしてみどりの日
紙風船壊れぬほどに打上げる
夏蜜柑ごろりと妻の気がかはる
初蝶の羽を休めて影を持つ
<この月の出来事>東京都知事選で青島幸男、大阪府知事選で横山ノックが当選。

1995年5月 野田ゆたか自選俳句

市役所を島に浮かべて樟若葉
玉を解く芭蕉これより句碑を守る
楽しみは毛針巻くこと夏来る
芍薬の所在見え初め薬草苑
雨がきて一気に瓜の茎を伸ばす
地震あとも剣を離さず武者人形
いい顔がカメラの前に子供の日
<この月の出来事>オウム真理教元教祖の麻原彰晃が逮捕される。

1995年 月の野田ゆたか自選俳句

静けさや風止む刻の竹落葉
明易や資格試験のせまり来る
夕風にひともと葵揺れやまず
入梅の雨意に連なる峰の雲
生涯を尺蠖として誤差を忌む
十薬の夜目に明るき花のあや
萍の花の白さや釣疲れ
<この月の出来事>羽田発函館行きの全日空機がハイジャックされる。

1995年7月 野田ゆたか自選俳句

錦城といふ涼しき城に登り来し
サングラス外せば声を掛けられし
魚市場がらんと午後の蝉しぐれ
縫ぐるみ脱げば少女の日焼顔
誤解解け汗の拳を解きにけり
向日葵は庭にぽかんと自然体
この任地最後の蝉のうつろかな
<この月の出来事>九州自動車道が全線開通。

1995年8月 野田ゆたか自選俳句

大西瓜重石のごとく抱へ来る
星今宵ほぐす二人のもつれ糸
淡泊でそして淋しき秋の蝉
老ゆるとはどのあたりから生身魂
瀬戸内の海を広げて天の川
新涼を纏ひ召されて地蔵さま
大文字の果てて戻せる町明り
<この月の出来事>ベトナムとアメリカ合衆国が和解・国交を樹立。

1995年9月 野田ゆたか自選俳句

草の花活けて朝会禁煙に
御門よりコスモスに歩のいざなはれ
秋の蚊の紛れし闇の深さかな
薬医門なればちちろの寝ずの番
般若寺の苑競り上げて秋桜
コスモスを揺らす寺苑の風清か
露けしや歩道の脇の萎れ供花
<この月の出来事>DVDの統一規格が完成。

1995年10月 野田ゆたか自選俳句

肌寒や生駒颪の通る道
長けし芽に疲れ見え初む松手入
叡山のすつきりみえて秋の空
夕風の立ち初め鳥の渡る刻
秋晴や苔鮮やかに八一歌碑
蓮の実や古代を今に飛ばししめ
秋深し万物の夜の静まりて
<この月の出来事>ペガスス座51番星に初の太陽系外惑星発見。

1995年11月 野田ゆたか自選俳句

銀沙灘しづかに濡らす夕時雨
木枯となりゆく風の増えて来し
駅よりの相合傘や夕時雨
神渡追へる離陸でありにけり
当尾の落葉に埋もれ石仏
あるがまま紅葉散敷き裏参道
担ふ荷に十一月の重さかな
<この月の出来事>Windows95の日本語版発売。

1995年12月 野田ゆたか自選俳句

隙間風ピーとパソコンエラー音
病棟の四方山話ちやんちやんこ
聖樹組み雪を見たいといふ子かな
たわいなき話弾ませ日向ぼこ
玄関に佇てばおでんの匂ひ来し
枯菊は乾くを待ちて焚くことに
賀状書き妻に任せて置くことに
<この月の出来事>白川郷・五箇山の合掌造り集落が世界遺産に登録。
