1992年度 野田ゆたか/月例自選俳句 へ


  
1992年1月の詠句 野田ゆたか

最上はわが家わが部屋寝正月
一片の雲なき御空初電車
新調の朱肉鮮やか事務始
口馴れし妻の雑煮の塩梅に
検問のトラック雪を落し去る
見回りの闇深ければ凍て早し
酢酸の凝れるままを計量す
  
<この月の出来事>X JPNが初の東京ドーム公演。
 

  
1992年2月の詠句 野田ゆたか

寺を抱く山春光に包まれる
御手洗に水の溢れて紀元節
紅梅のほか鉢何も持込まず
一本の古梅が天を眩しめり
涅槃会や泣明したる鼠の絵
座禅草義理ある人に背を向けて
春キャベツ刻む寮母の袖まくり
  
<この月の出来事>冬季オリンピック、アルベールビル大会開催。
  

  
1992年3月の詠句 野田ゆたか

ものの芽の際立ててゆく石の数
啓蟄の足の爪つむ日和かな
犬が来て堀上げし穴春の土
行過ぎて戻る電車や遠がすみ
若鮎は勢ひに乗り旅の途次
鳥雲や変事の国の空如何に
ぬばたまの闇深めゆく修二会かな
  
<この月の出来事>ソ連崩壊。
 

  
1992年4月の詠句 野田ゆたか

菜の花や友来て油売りゆけり
戸惑ひも少しとなりて四月尽
曙光より拡がつてゆく春の空
若芝に鹿呼ぶホルン響きけり
春暁の窓より聞ける鳶の声
穏やかな春の月なり仮眠覚め
花御堂若草山に晴るる雲
 
<この月の出来事>テレビ朝日『クレヨンしんちゃん』放送開始。
 

 
1992年5月の詠句 野田ゆたか

触るるたび零れさうびの昼下り
二階川岸の高さに鯉幟
片づけることは任せて更衣
草笛を吹ける妻とはつゆ知らず
修復のなりし大塔若葉風
更衣婦警ら街によく似合ふ
段登る御神輿誰もが支へゐし
  
<この月の出来事> 国家公務員週休2日制スタート。
 

  
1992年6月の詠句 野田ゆたか

郭公や一段高き二月堂
刈られてもすぐに芽を持ち夏の草
慣れといふ罠に寄せられ蟻地獄
一人たり戦に出すな袋蜘蛛
参道の老舗はなべて麻暖簾
紫陽花の叢を召されて石仏
星一つ闇深めゆく蛍川
  
<この月の出来事>阪神の湯舟敏郎投手19年ぶりにノーヒットノーラン達成
  

  
1992年7月の詠句 野田ゆたか

炎天を独りじめして池の亀
夏暁の空気が素敵窓明ける
夏山の白むは風の通る道
夏萩の湖の一辺暮れなづむ
家具一つ少し動かし夏の部屋
家族みな目覚めてをりぬ夜の喜雨
花はちす島の御堂は賑はひて
  
<この月の出来事>山形新幹線開業。
 

  
1992年8月の詠句 野田ゆたか

桐一葉ぽとりと本音もらしたる
吾が町の銀河に淀みなかりけり
広島忌汗の仲間ら黙祷す
軍事基地たりしは昔花煙草
久方に消息知れて盆の月
迎玉打てる花火師残照に
結論は妥協にあらず花茗荷
  
<この月の出来事> 全国高等学校野球夏の大会で松井秀喜5打席連続敬遠。
  

   
1992年9月の詠句 野田ゆたか

岸に向け船頭叫ぶ霧の中
コスモスに連らなりてゆく伽藍かな
結願の寺苑爽やか日本晴
月白やさてこれからが我が時間
見せたいと思ふ絵があり秋うらら
長き夜の心添ひゆく揮毫の句
穴まどひ応ふる仲間すでにに居ず
 
<この月の出来事>阪神対ヤクルト戦で6時間26分の最長試合時間を記録。
 

  
1992年10月の詠句 野田ゆたか

一つもぎ出来は如何にと早生蜜柑
稲荷社の鳥居の続く秋の山
下車よりは独りの家路うそ寒し
戒名の褪せし塔婆や鶉鳴く
柿たわわ放生池の鯉太る
寛平の顔もて道化案山子かな
竿を振る釣人芦に隠れをり

<この月の出来事>天皇、初の中国訪問。
 

  
1992年11月の詠句 野田ゆたか

供養にと持たされし傘夕時雨
銀杏散る二部の学舎は明々と
月曜の落葉の嵩を掃く校吏
御堂筋還る土地なき落葉散る
参道の茶屋静まりて夕時雨
山茶花の尽きしところが法学部
散りゆける銀杏黄葉のあかるさよ
  
<この月の出来事>沖縄県那覇市首里に首里城が復元される。
 

  
1992年12月の詠句 野田ゆたか

遠くより牡蛎船の灯と見つつ来し
鴨の陣風の横槍受けてをり
一つずつ予定をこなし師走かな
火事怖れ煙草控へし記念館
花枇杷や腕組を解き祖父となる
外出と心定まり炬燵消す
年忘部屋の芸人皆揃ふ
  
<この月の出来事>気圧の呼称単位がミリバールからヘクトパスカルに。